4 「……ってわけで、あたしとしては千速が何でイブキと一緒にいたのかが気になるわけでね」 いやまあ千速はどうでも……よくはないけど、龍妃怒らせたままなのが本気で怖い。 いやマジで。 (普段怒らない人ほど怖いっていうのは、どうやら本当らしい) イブキは、途中から次第に顔色が変わっていき、話が終わる頃には完璧に「しまった」という表情になっていた。 「……イブキ?」 「なんてことなの……まさか、あの人があなたのとこのポケモンだったなんて、」 どうやら、この様子だと別に千速である必要はなかったらしい。 そういえばキングドラの状態で会ったことはあるけど、擬人化したときに紹介したことなかったっけ。 つまり、千速はイブキを知ってるけど、イブキは擬人化した千速が千速だと気付いてないわけで。 ともすれば、やっぱり気になるのはその理由。 「どういうこと?」 「ちとせ、別にわたしはあなたのポケモンをどうこうしようっていうつもりはなかったのよ」 ようやく、溜息と共にイブキは事の次第を語り始めた。 「あなたたち、龍の穴にカイリューが一匹いるのは知ってる?」 すると、龍妃がこっそり「姉さんよ」と耳打ちした。 あたしは頷く。 「あの子……女の子なんだけどね。異性が本当に駄目でね……女の子には慕われてるんだけど、男の子からは怖がられちゃって」 そういえば、龍妃も言ってたっけ。 イブキは話を続ける。 「長老様やワタル兄さんだけは大丈夫なんだけど、うちの男のトレーナーも駄目。このままだと、龍の穴の力関係が不安定になるって危惧しててね……今まで甘やかしてたわたしたちももちろん悪いんだけど。そこで……よ、」 そこまで語ったところでイブキは一度言葉を切り、気まずそうにあたしの方を向いてきた。 「……ちとせ、怒らない?」 「内容による。言ってみなよ」 ん、とあたしが顎で促すと、怖ず怖ずとイブキは口を開いた。 「いや……ね。こうなったら荒療治しかないってことで、さ。うちのトレーナーやポケモンは怖がって近づかないし、龍の穴の近くにいたあの人……千速くんをちょっと借り、」 「殴る」 「ち、ちょっと!ごめんってば!」 まったく……なんでそれでうちの千速がそんな目にあわなきゃいけないんだ。 そりゃあ、いっつも果凜の制裁受けてる千速のことだから多少のことじゃくたばらないけどさ。 つまり千速にとっちゃ、とばっちりの踏んだり蹴ったりだったわけだ。 (どうでもいいけど、踏んだり蹴ったりは意味的には踏まれたり蹴られたり、じゃないだろうか) 「……で、そのカイリューはどうなったのさ?」 すると、イブキは盛大に溜息をついて、言った。 「それがね……逆効果だったのか、パニック起こしてさっきまで暴れてたのよ」 「……やっぱり殴る」 「ちょっと、だからごめんってばちとせー!」 フスベジムに、イブキの声が響き渡った。 |