2 人気の少ない路地に身を潜めてから、どれくらい時間が経っただろう。 そろそろ飽きてきたんだけどな。 「まひる、どう思う?」 『どう、って?』 「なんで、あたしがキキョウにいるのがバレたのかってこと。んで、これからどうするか」 そう、これからのことも問題なのだ。次はフスベに行こうと思ってたけど、この様子だと、またすぐに見つかる可能性も否定できない。 『そうだな…ん?ちとせ、ポケギア鳴ってないか?』 まひるに言われてザックを見ると、マナーモードにしてたポケギアがヴヴ…と鈍い音を立てていた。 名前を確認すると、予想外というべきか何なのか。 「…マツバ?」 エンジュで最後に会った、そして、私が唯一キキョウに居ることを知ってる人物。 「よぉ、ちとせ」 あたしの状況を知ってか知らずか。いつものように飄々としたマツバの声が、スピーカーの向こうから聞こえた。 「よぉ、じゃないわよバカマツバ!」 「うるせーな、何なんだいきなり」 「あんたでしょ?!」 そう、あたしがここに居るのは、コイツしか知らないはずなのだ。あれだけ母様には言うなって念押したのに、口を滑らせたに違いない。 「おいおい、人聞き悪いこと言うなよ。俺はバラしてないぞ」 「じゃあ、他に誰が居るっていうのよ」 「だから、俺はそれについて忠告しようと思って電話してやったんだよ」 スピーカーの向こうで、盛大な溜息が聞こえた。 「忠告?」 「そ。今朝、お前の家の…守弥とかいうのが俺の家に来たんだよ。お前探してるってな」 「そ…それで、」 「来てないっつって追い返した」 「ふーん…?」 マツバは憎たらしいけどこんな時にウソつくようなやつじゃないのはよく知ってるから、多分これは本当なんだろう。 「それで、ちとせ。一度エンジュに戻って来ないか?」 耳を疑った。 「はぁ?!アンタ馬鹿?」 『し!声がでけぇよ』 そうだ、今あたしここに隠れてるんだった。 まひるに釘を刺されて声のトーンを落とす。 「とにかく!あたしは戻らないって、」 「今、連中ほとんどキキョウに行っててエンジュは手薄なんだよ。それに、ジムの中ならバレにくいだろ」 確かに、あのジムは挑戦者以外なかなか近寄りがたいけど。 (マツバファンの女の子ですら、中には入りたがらないのだ) 「…わかった。昼過ぎには着くから、裏口開けといて」 守弥自身が動いてることから考えても、マツバの言う通りエンジュは手薄なんだろう。 なら、灯台元暗しって言葉だってあるし、一度エンジュに戻ってみよう。 辺りに人がいないのを確認して、あたしはボールに手をかけた。 「あやめ、よろしく!」 なんとも早い帰還になってしまった、と。 あやめの背中で、ちょっぴり憂鬱な気分になった。 |