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「え……、」

果凜のそのやたらと物騒な言葉に、先程まで崩れなかった龍妃の顔色がさすがに変わった。

「はぁ?!ちょ、てめぇ果凜ふざけんな生死って何なんだよ!」

しかし千速が吠えるのを意にも介さず、果凜はわかりやすく欠伸をひとつして、めんどくさそうに口を開く。

「あんな、さっきも言ったけどあたしは寒いなかわざわざ仲裁に来て、しかも眠いわけ。だからとっとと黙らせて寝てーんだよ。お分かり?いーだろ、龍妃は千速がいなくなりゃ怒る必要もなくなるんだぜ?……ああ、それとも」

不意に果凜は何かを思いついたのか、不適な笑みで千速を見遣る。

「あたしが千速をもらってやろうか?アンナコトやコンナコトして楽しませてやろっか?」

……無論、彼女の千速に対する"アンナコト"や"コンナコト"はいかがわしい意味ではなく千速にとっては大変に有り難くないエトセトラであるのは、推して知るべし。

「楽しいぜー?(あたしの)ストレス発散にもなるしなー」

な、と果凜が千速に詰め寄った、そのとき。


「わ……別れてないわ」

ぐい、と千速の腕に、龍妃が抱き着いた。

「そーなわけ?」

ちらりと視線を千速に移せば、龍妃の肩を抱き寄せてものすごい勢いで首を縦に振る。

「別れてない!ほら、こんなにラブラブだろが!」

「し……心配ないわ!」

千速に合わせて龍妃も首を縦に振る。

「なんだ、別れねーの?」

意地の悪い笑みを果凜が浮かべると、先程まで喧嘩をしていたとは思えないくらい息の合った調子で頷く。

「別れてないわ!」

「ラブラブだ!」

だからどうぞお引き取りください。と、千速の持っていたポッキー1箱が支払われた。






「お帰りなさい、果凜」

部屋に戻る途中。
明かりの洩れていた食堂を覗いてみれば、点呼を終えてお茶を入れていたあやめがいた。

「お座りなさいな。寒かったでしょう」

促されるままに適当な席につけば、ほこほこと湯気の立つお茶が差し出された。

「それで……どうだったの?」

「いやいや、あやめもわかってんだろうよ。あいつら、何だかんだで大丈夫じゃん」

「そうね……でも貴女が行った方が一番いい形で丸く収まるのが早いもの」

「か。なんだよそれ」

「あら、困ったときの果凜頼み、っていうのが私の中ではあるのだけれど」

あやめの言葉に、ねーよ、と返して果凜は湯呑みのお茶を一口すすり、先程千速から支払われたポッキーを満足そうに口に運んだのであった。


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