2 「……で?なんでアンタら喧嘩してるわけぇ?」 てっきりさっき聞こえてきた声だと龍妃がどこかへ走り去ったという展開を予想していたのだが、どうやら千速が引き止めていたらしい。 限りなく無表情の龍妃と、気まずそうな千速がそこにいた。 しかし龍妃は果凜の姿を確認すると、 「あら、果凜さん。ごめんなさい、点呼の時間過ぎちゃったわね。すぐに戻るわ」 と、笑顔で言い放つ。 正直、かなり関わりたくない。 ……と、心中毒づきながらも、あやめとの約束もある。 どうしたものかと頭を掻きむしり、彼らを交互に見る。 龍妃と視線が合ったが、どうやら彼女は状況を説明するつもりはさらさらないらしい。澄ました顔で、玄関の脇に佇んでいる。 仕方なく千速の方に視線を移せば、「誤解だ!」と叫ぶ。 「うっせーよ、今何時だと思ってんだよ千速」 がつ、と鈍い音をさせて千速の額に果凜の鉄拳が飛ぶ。 いってぇ、と千速は鉄拳の犯人を睨みつけるが、それくらいで怯む果凜ではない。 「あたしな、寒い中わざわざ来てんの。すっげー機嫌悪ィんだけど、その意味わかる?」 一歩詰め寄れば、小さく千速が怯んだ。 「いやさあ……龍妃、その、」 なかなか喧嘩の理由を白状しないので果凜としても苛々が募る。 いっそもう龍妃連れて部屋に帰るか……なんて、そんな薄情なことを思いはじめたその矢先。 「千速」 「な……なに、龍妃」 龍妃の呼びかけに期待を膨らませ、顔を上げた千速に彼女は笑顔で口を開いた。 「別れましょ?」 いっそ清々しいくらいの笑顔に、珍しく語尾にハートマークまでついている。 「ちょっとぉおおお!!」 ……正直、来たのは間違いだったのかもしれない。 先程胃を押さえていたあやめの気持ちが少しわかった……と、同時に、果凜の中で何かがキレた。 「龍妃ぃ、マジで千速と別れるわけ?」 果凜の問いに龍妃の表情が一瞬揺らぐ……が、今更後には引けないようで、ぎこちなく頷いた。 「ふーん。じゃー別れたんなら千速の生死は問わねーよな?」 |