1 岩村夏希といえば、そこそこ人数のいる正邦高校の中でも比較的有名な女子生徒だ。 その名字でピンと来る人も多いだろうけど、オレの同級生でありバスケ部キャプテンの岩村の妹だったりする。 サボったり寝ていたりと授業態度は悪いけど、テストは毎回トップ3に入るくらい成績優秀。 運動神経だって並の男子よりははるかにいい。 (噂によれば、授業をサボるために4階の窓から飛び降りて無傷だったって話もあるくらいだからねー) 身長は岩村とは正反対で小柄。目がくりっと大きくて黙ってればすっごい可愛いのに(彼女はきっとお母さん似に違いない)、性格はといえば、短気・口が悪い・めんどくさがり・暴力的……その外見とのギャップに、最初は驚かされたモンだわー。 そんな彼女の最大の特徴はといえば、兄である岩村のことを死ぬほど嫌ってるっつー、ちょっとばかり変わったコだったりする。 っていうか、そのとばっちりでオレも邪険にされてたりするんだけどー。 (夏希ちゃん曰く、「兄貴と同じバスケ部員は私の敵」らしい) (津川なんぞ、クラスまで一緒だから余計に鬱陶しがられてるみたいだ) つまり、まあ、何が言いたいかって。 「岩村ー」 「なんだ、春日」 放課後。 いつものように部室で着替え、体育館へ出る前に。 オレはさっきのことが気になって、岩村を呼び止めた。 「昼休み、夏希ちゃんと話したよー」 彼女の名前が出るや否や、岩村の眉がぴくりと上がる。 「夏希と?」 バスケ部員と話すなんて珍しい、と、その細い目を少し見開いた。 「うん。岩村さー、夏希ちゃんに嫌われてるけど、岩村自身はどうなのさー?彼女のこと。嫌いなん〜?」 オレの質問に岩村は珍しく少し考え言い澱み、 「…………わからん」 と、ぽつりと漏らした。 「わからん、って……」 「ああ、勘違いするなよ。あいつが何を考えてるのかわからん、ということだ。別にあいつがどうでもいいとか、そういう意味ではない」 あ〜、なるほどねー。夏希ちゃん、岩村と意志疎通できてなさそーだもんなぁ。 |