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「……私、さ。小さい頃から『岩村努の妹』って何回言われたと思う?もう聞き飽きたくらい言われてるんだよ」

ぽつり、と。
今まで溜め込んでいたものを、小さくこぼした。

「でも、本当の事でしょー?」

「……だからムカツクの。だって私がいいコトすれば『流石岩村の妹』で、逆に悪いコトすれば『岩村の妹なのに』だよ?周りのヤツらはみんな兄貴を基準に考えやがるんだ。私自身を見てくれるヤツなんて居ないんだよ。兄貴のせいで。これで嫌にならないヤツなんて、きっといないね」

「そっか〜……。……オレはそういう風に比べられたことがないからわからないけどさー」

そこで春日は一旦言葉を切って、私の手をもう一度ぎゅっと握った。

「オレはさ、夏希ちゃん自身を見てるつもりだったんだけどなー。気付いてなかったー?」

「…………は?」

思いもよらなかったその言葉に、思わず声が裏返った。

「最初はさ、確かに岩村の妹っていうことで興味を持ったんだよ。でも、今は違うよ。今こうやって話をしてるのは、夏希ちゃん自身を見てるからだし、夏希ちゃんが夏希ちゃんで夏希ちゃんだから好きなんだよー」

「……は。私が私で私、とか、意味がわかんないし」

や、ばい。
今までそんなこと言われたことないから、どうしていいかわからない。
顔を上げることが、できない。

「ねー、夏希ちゃん?オレ、一応これ告白してるつもりなんだけどー。返事、くれない?」

なんだかよくわからないけど、突然の展開にうまく考えがまとまらない。
こいつが……春日が、私のこと好きって……告白って、

「ん……っと。私……さ。実は、あんたのこと、別にめちゃくちゃ嫌いってわけじゃないんだよね。兄貴の仲間だからムカついてただけで」

「そうなのー?」

「ん。どっちかといえば好きの部類に入る、かもしれないし」

苦手は苦手、なんだけど。
やっぱりどこか無意識で、私自身を見てくれているような……そんなものを感じていたからじゃないかって、今ならそう思うんだ。

「そっか〜。よかったー、嫌われてなくて」

「あ、でも付き合うとかはナシな。そういう好きじゃないし」

「ちぇー、残念ー。まあ、今はそれでもいいかなー。嫌いじゃないなら、徐々に振り向かせてみせるしー」

「は……っ?!」

思わず顔を上げた私の耳元で、春日は小さくこう囁いた。




「覚悟しててね、夏希ちゃん?」




……それから。
「嫌いじゃない」って言ったことを死ぬほど後悔したのは……そう遠くない、未来の話。


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