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それは、桜も満開の入学式の日だった。
その日は晴れで、絶好の入学式日和だったのを覚えている。
だからといって入学式なんて、迎える側のオレ達にとっては面白くも何ともない、むしろ退屈なイベントなわけで。
何事もなければ適当にサボってやろーかとも思っていたのを見透かすかのように、松本監督から新入生の胸に飾る花飾りを受付に運ぶよう御達示を受けた。
(本来なら前日までに各クラスから何人か準備に選ばれるが、入学式ぎりぎりまでバスケ部が練習していたから、と、バスケ部総出で準備に当たっている)

とにかく、面倒事はさっさと終わらせるに限るとばかりに2箱ある段ボールを纏めて運ぼうとしたのが悪かった。
花飾りなんて軽いものだから2箱くらい、とナメてかかったのがまずかった。
花飾り自体は軽い。しかし、かさ張る。
そしてそれは新入生の人数分あるわけで、必然的に箱の大きさもそれなりになるわけで。
決していいとは言えない視界の中、前から近付いて来る気配を避けようとしたがうまくいかずに盛大にぶつかった。
その反動で上に乗せていた段ボールは廊下に落ち、床に紅白の絨毯を広げる。
ようやく開けた視界で様子を確認すれば、その中に尻餅をつくのは小柄な女の子。タイの色で新入生だということがわかる。
この様子だと、彼女も前方不注意だったらしい。

「大丈夫〜?」

とりあえず箱を床に置いて彼女に手を差し出せば、遠慮がちにその手を取る。

「ん。ヘーキ」

体勢を整えた彼女はスカートの埃を叩くと、もう一度しゃがみ込んで廊下に散らばる花飾りを拾い集め始める。

「何ぼーっとしてんですか。貴方の仕事でしょう」

そんな彼女の様子に呆気に取られていると、下から思い切り睨みつけられた。
この子、オレが上級生だと気付いてないわけじゃないだろうに、なかなかどうして辛辣である。
まあ、彼女の言うことも尤も正論なわけで、もう言ってるうちに新入生の受付が始まってしまう。
二人がかりで花飾りを段ボールに詰めれば大した時間はかからなかった。

「今度は落とさないで下さいね」

「うん、ありがとう。君も、入学式遅れないようにね〜」

オレの言葉が終わるか終わらないかのうちに彼女は踵を返し、立ち去ろうとした……そのとき、だった。

カサッと何かを踏んだような乾いた音が響いた。
足元に視線を落とせば、彼女の靴の爪先に踏まれた花飾りがひとつ。

「げ……っ」

「あららぁ……これ予備ないんだけどな〜」

うーん、困った。いや、オレが困るわけじゃないけど。まあ、確実に注意は受けるわけで。

「……私の、これでいい。もらってから落としたことにすれば、貴方のせいじゃないし」

そう言って彼女は花飾りについた土を払って形を整えると、制服の胸元に付けようとした……のを奪って、オレの手で付けてやる。

「……何するんです?」

「これを付けてあげるのは上級生の仕事でしょ〜?入学おめでと〜」

「……っ!…………ありがとう、ございます」

そう言い捨てると、今度こそ彼女は元来た道を走り去って行ってしまった。



花飾りを付けるときに見えた名札に記された苗字がよく見知った同級生と同じものだということに気付き、彼と彼女の関係をオレが知るのは、その日の放課後のこと。
そして、オレと彼女が再会したのは、そこから更に一週間後のことで、会う度に度肝を抜かれて、それでも今まで見たことのないタイプの彼女に惹かれていくのはまた、別の話になる。



彼女……夏希ちゃんは、あのとき会ったのがオレだって気付いてるだろうか。
気付いてなくてもいいよ。
オレが覚えていたら、それでいいから。


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