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「いやー、よかったねー」

……あれから。
私はそのまま教室に戻る気にもなれず(戻ったところで先生に口やかましく説教されるだけに決まってら)、そのまま屋上に来た、わけなんだけれど。
どういったわけか、私の隣で春日がへらへらと笑っている。

「……なんであんたがここにいるわけ?」

「んー?夏希ちゃんと話がしたかったからー?」

私の質問に疑問形で返すな。
相変わらずつかみ所がないというか、こいつと話していると私の調子が崩れる。

「あたし放課後まで、ここで寝とくから。あんたはとっとと自分のクラスに帰んな」

「えー、助けてあげたんだしー、お礼とかないのー?」

こいつが意図的に助けたのかもしれないし、確かに私としても結果的に助けられたわけだけど。
でも、バスケ部員に借りを作るなんてまっぴらごめんだし、第一私が助けてと頼んだわけじゃない。

「んなものあるか」

「えー、いいじゃーん。じゃあさ、夏希ちゃんがなんで岩村の事嫌いなのか、教えてよー」

「勝手に決めんな、アホタレ」

「ねーねー、いーじゃーん」

「よくない」

ひたすらキッパリ答えていると、何を思ったのか腕を掴まれた。

「教えてくれるまで放さないよー」

「う……っ、」

今までこいつに何度か接触して、学習したことがある。
つまり、こういうときのこいつは限りなく本気だってこと。
理由を話さなかったら、間違いなく放課後までこのままだろうっていう予想は簡単にできる。

……まあ、結果的にとはいえ助けられた、わけだし。
理由を話して、さっさとこいつから開放されたいという打算がないでもない。

「……わーった。話せばいいんだろ」

ばりばりと頭を掻きむしりながらヤケクソでそう言えば、掴んでいた腕の力が少し緩んだ。

「ありがとー。……でさ、なんで嫌いなのー?」

「んー……。じゃ、まず聞くけど、あんたは兄貴のこと、どう思ってる?」

私の質問に、春日は「うーん」と少し考えて口を開いた。

「岩村ねー。まあ、責任感あるしリーダーシップもあるし、バスケもうまいねー。あいつがいるからオレも安心してプレイできるところがあるっていうか。成績もいいからクラスでも一目置かれてるみたいだしー。まあ、もうちょっと愛想あってもいいんじゃないかってオレは思うんだけどねー」

「ま、そーだよな。最後のはともかく、責任感あってリーダーシップあってバスケうまくて成績までいい?それは認める。でもね、そんなヤツが兄だったら妹はひたすら迷惑なわけ」

「なんでー?いいじゃん」

本当になんでかわからない、と、春日は首を小さく傾げた。
わかんないかなー、比べられる気持ちって。
私は小さくため息をついた。


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