3


トン、トントン

スタタタタタ……

軽快な包丁の音が家庭科室に響く。
青峰は意外にも器用なようで、さくさくと玉ねぎを刻んでいく。
自分から勝負の種目を選んだだけのことはある。

対して黄瀬はろくに普段包丁なんぞ使わないんだろう。
ぎこちない手つきでゆっくり刻んでいく……が、半分くらいまで切目を入れたところで動きがぴたりと止まった。

これはもしや、涙を流すのか……?
僅かな期待を込めて、黄瀬の様子を注視する。

……が。
あたしの期待は、割とあっさり裏切られた。

「え……まさか、」

黄瀬の視線を辿っていけば、軽快に玉ねぎを刻む青峰の姿。
おいおい、まさかあんたのコピースキルをここで使うとか、

「は、お前がオレに勝てるかよ」

「青峰っち、今日こそ勝つっスよ!」

そして、黄瀬の目の色が変わり、包丁を握り直した、そのときだった。


「くぉら!お前らは何をやっとんだ!!」


「やっべ、見つかっちまったか」

振り向けば。
鬼のよーな形相の家庭科教師……松本が肩を震わせて立っていた。

「青峰、黄瀬……。今は何の時間かわかってるか?」

「家庭科っしょ。ちょーりじっしゅー」

悪びれる様子を見せず、青峰はいけしゃあしゃあとのたまう。

「ほぉ……じゃあ、黄瀬。前の黒板にあるメニューを読んでもらおうか?」

「えーと……カップケーキ、っスかね……?」

対する黄瀬は、まずい、と顔が引き攣っている。
イケメンさんよ、台なしだぜ。

「で、その刻んだ玉ねぎは一体何に使うつもりだったんだ?」

「あ……あははは……、」

つう、と黄瀬の頬に伝ったのは涙ではなく多分冷や汗。

「ともかく青峰、黄瀬。お前らあとで職員室に来い!」



この日の夕方、部活に青峰と黄瀬の姿はなかった。






作戦No.2「玉ねぎみじん切り」
発案者:青峰アホ峰大輝
結果:失敗
敗因:家庭科の松本怒らせるとマジ怖い

特記事項:金輪際青峰にノート見せてやるもんか


[*prev] [next#]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -