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「……なあ、春日」

このままおとなしくこいつの隣に座ってるのも癪だから。

「あんた、ヒマなわけ?」

すると春日はコーヒー牛乳のパックから口を外して苦笑した。

「ヒマってわけじゃないかな。これでも受験生だし、まだ部活は引退してないし」

「じゃあ、何で。私みたいなのに構うんだよ」

とんがってるし、素直じゃねーし、悪態ばっかだし。何が楽しいのかわかりゃしない。

うーん、と少し唸って、春日は私の目を覗き込む。
普段のへらへらとした眼差しではなく、まっすぐな視線。

「前に言ったでしょ?オレは夏希ちゃんが好きだよって。それに理由は必要?」

「……っ!」

まただ。
普段はムカつくくらいへらへらとしてるくせに、たまに見せるこの真剣な目で見られるとどうしていいかわからない。
……あのときと、同じように。

「……教室帰れよ。もうチャイム鳴るだろ」

これ以上春日と同じ場所にいると、私がどうにかなりそうだ。

春日のことは嫌いではない。
だけど、好きでもない。

……なのに、何で。

こいつが近くにいると、こうも調子が狂うんだ。

「そうだね、次移動だしそろそろ戻ろうかな」

思いの外あっさりと、春日は土を払って立ち上がった。
少し……そう、ほんの少し……残念に思ったのは、きっと気の迷い。

「あ、そうだ。夏希ちゃん、来週の土曜ってヒマだったりするー?」

「は……?」

突然ぴたりと立ち止まった春日が振り向き様にそう言った。

「来週の土曜。インターハイ予選の準決勝と決勝なんだ。夏希ちゃんが見に来てくれたら嬉しいなって」

「……やだよ、バスケなんか。兄貴もいるし、ぜってー見になんて行かない」

「そう言うと思ったよ」

まあ考えておいて。と、言って春日は校舎の中に消えて行った。
ぼんやり立ち尽くす私の耳に、予鈴の音が響く。

「くっそ……、」

あーあ、5限に出る気なんて更々なかったのに。
春日のせいで、サボる気もなくしちまったじゃねーか。

今から教室に戻ればぎりぎり滑り込みだろうか。
私はスカートについた土を払って教室に戻るべく、校舎に向かって歩き出した。


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