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まあ、今思えば、あれってあたしが演技したから怒って顔赤くしたのかもしれないけど。
……ま、いっか。どーせあたしが努くんの彼女である事に変わりはないし。うん。

それより今はデートが問題なのよ。

「ねー、努くん?」

いつまでも煮え切らない努くんの顔を覗き込めば、努くんはようやく口を開いた。

「悪いが、日曜は朝から一日中部活だ」

ふーん、そっかぁ。一日中部活が……って、

「えぇええ?!日曜なのに?朝だけとかじゃないの?!」

今までだいたい日曜は半日練習だったじゃない!
あたしの言いたいことを悟ったのか、努くんが言葉を続ける。

「インターハイ予選が近いんだ。当然、練習も多くなる」

嗚呼、ショックだわ……つまり、最悪インターハイに決着がつく夏までは努くんとのデートはお預けってこと?
ううん、それはさすがに嫌だなぁ……
仕方ないなぁ、そしたらちょっと一肌脱ぐかなぁ。

「そう……部活なのね」

「あ、ああ」

しゅん、としおらしく目を伏せれば、少し安心したような表情を浮かべる努くん。

「ねえ、クラスメイトその2。ちょっと聞いていいかしら」

後ろの席で談笑していたクラスメイトその2をおもむろに巻き込んでみる。
突然呼ばれた彼は、は?と頭に疑問符を浮かべている。

「ねえ、クラスメイトその2。あたし、努くんに愛されてるのかなぁ?付き合ってからもう一ヶ月経つっていうのに、まだ一度もデートに行ったことないのよ」

「お……おい、時枝?」

うふふ、努くんてば動揺してるわね。
じゃあ、このまま一気に畳み掛けましょうか。

「それにね、聞いて。あたしが告白したとき、おお、って言ったきりで、好きだって言ってくれてないのよ」

「そ、そうなのか?」

突然の展開について来れてないであろうクラスメイトその2。
今のは当たり障りなく無難な返事をしたってとこかしら。

「ええ、ひどいと思わない?きっと努くんはお遊びであたしと付き合っているんだわ……あたしは本気で努くんのこと好きなのに」

あたしの目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
努くんが動揺する気配が伝わってくる。

「ぐす……ひっく……、」

「お、おい、時枝……」

「おい岩村……お前謝れよ。男だろ」

「…………」

クラスメイトその2の言葉に、努くんが小さくため息をつくのが聞こえた。
怒っちゃったかな……?

しかし、次の瞬間。
あたしの頭に、ぽん、と大きな手が乗せられた。

「……?」

「その……俺はちゃんと、好きだぞ」

初めて彼から聞く「好き」って言葉。
嬉しさで、余計に涙が溢れ出してくる。

「あー……その、今週日曜は部活を休むわけにはいかないが。来週とかなら、どうだ?」

「うー……ひっく……」

ぐす、と止まらない涙をこすれば、とうとう困ったという気配が伝わってきて、そして。

「あー……、なんだ。日曜、午後から休みにする、か……?」

「ほんと?!」

ぱっと顔を上げれば、正に鳩が豆鉄砲な顔をした努くん。
目が点になってる。

「な……っ?!お前、今の嘘泣き……!」

「今のは半分くらい本気だったわよー。言ったじゃない、努くん。あたし、演劇部だって。それより努くん、約束だよ、日曜日!」

あー半分本気入ってたから泣くの楽だったわー。
勝手に涙溢れてくれるし、リアリティあるもんね。
やっぱ男の子って、女の子の涙に弱いのね。あたしいい特技持ったわー。
しかもピンポイントで努くんの弱点だし。

「ね、努くん。日曜、楽しみだね」

「………………ああ」



なぜか落ち込み気味の努くんと、嬉しくて辺りを跳ね回りたい気分のあたし。そして巻き込まれたものの未だに状況が飲み込めないクラスメイトその2……教室に帰ってきた春日くんは、そんな教室の一角のあたしたちを見て、いつものように「あららー」と呟いたのだった。


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