3 一月くらい前のあの日のことは今でも覚えてる。 クラスメイトのちょっぴり無愛想な男の子。 偶然か、それとも運命か。あたしと努くんは奇跡的にも3年間ずっと同じクラスだった。 口数は多くないけど、ちょっとしたことをさりげなく助けてくれる彼に、次第に惹かれていったんだ。 そして、とうとう先月に思い切って告白をした。 「あたし、岩村くんのこと好きなの!付き合って!」 「えー、あー……」 しばらく固まっていた岩村くんがようやく発した言葉はイエスでもノーでもなく、たったのそれだけ。反応鈍いなぁ……よし、ここはもう一押しかな。 「岩村くん、ひどい……あたしが決死の覚悟で告白したのに「えー、あー」で済ませるなんて。所詮あたしはただのクラスメイトなのよ」 「い、いや、その、」 うふふ、うろたえてるわね岩村くん。あともう一押しってとこかしら。 「ああ、岩村くんに捨てられたらあたし、いったいどうすればいいの……」 つう、と目尻から涙が落ちた。 それを見た岩村くんは、その表情を滅多に見せない焦りに変える。 「いや、別に捨てたわけじゃ……」 よしっ! 「本当っ?!今、捨ててないって言った?!」 「え……あ、ああ」 ずい、と一歩迫って問い詰めれば、若干引きながら岩村くんが答えた。 更に一歩、距離を詰める。 「じゃあ、付き合ってくれる?!」 「お……おう」 「やったぁー!」 嬉しくて思わず飛び跳ねれば、岩村くんは展開についてこれてないのかその小さな目を思い切り見開いた。 「っておいお前、たった今泣いてなかったか?なんでもう涙が乾いてるんだ」 「ああ、あれ。だって演技だもの」 「…………」 あ。岩村くんってば頭を押さえて沈黙しちゃった。 「岩村くん。あたしが演劇部だってこと忘れてない?あたし、いつでもどこでもすぐ泣けるの。ウソ泣きだからすぐ乾いちゃうけどね」 まあ、こんなことできるのは部内でもあたしだけなんだけどね。 「な……っ!お前、」 「あれ、岩村くん……うーん、付き合ってるのに岩村くんは他人行儀ね。努くんって呼んでいいかしら。努くん、顔真っ赤だよ」 「………」 完全に黙り込む努くんを尻目に、あたしはあたり構わずはしゃぎまわる。 あたしが浮かれながら屋上を去ったその後も、努くんはただただ呆然とその場に立ち尽くしていた。 うん。回想終わり。 |