2 そして、昼休み。 あたしはいつもみたいに努くんの席までお弁当持ってダッシュした。 で、呼んでないけどいつの間にか春日くんが加わってるのがここ最近のお昼休みの光景……だけど、今日は春日くんの姿が見えない。 聞いたところによると、努くんの妹ちゃん(色んな意味ですごい子)が気になってるとかいないとか。だから多分、今日は1年のとこに行ってるんだと思う。 これ幸い、と、あたしは努くんの前にお弁当箱をひとつ、差し出した。 「あのね、努くん。あたし、今日お弁当作ってきたんだ」 しかし努くんは、あたしとお弁当を交互に何度か見た後に。こう言ったのだった。 「俺、弁当あるぞ」 そう言って彼が出したのは、あたしが作ってきたよりも更に一回り大きいお弁当箱。 「えーっ?!なんでなんで、どうして?!努くん、ここ一週間ずっと買い弁だったじゃないっ!」 だからあたしママンに教わってお弁当作ってきたのに! 「……昨日まで一週間、母さんが旅行で家にいなかったんだ。だから、買い弁だった」 うぅう……ショックだわ……! せめてあと1日早ければ、努くんにお弁当を食べてもらえたのに……! さよなら、お弁当さん。 あなたは努くんに食べられるという任務を果たさぬまま、今晩あたしの胃袋に消える運命なのよ。 アディオス、と心の中で呟いてお弁当箱をかばんになおそうとした、ときだった。 「……寄越せ」 「えっ……?」 「せっかく作ってくれたんだろう。食う。母さんの弁当だと少し量が足りない」 そう言った努くんは相変わらず朴訥としてるし無愛想なんだけど。 あたしにはわかるよ。努くんがそうやって優しいとこ。 「うん……!あ、あのね!この里芋の煮物とか、ちょー力作でね、」 嬉しくなったあたしは、今まさに仕舞わんとしたお弁当を努くんの前に出して、中身の力説をする。 努くんは「ん」とか頷きながら、それらに箸を伸ばしてくれる。 えへへ、なんか嬉しいなぁ。 「うまいな」 一通り少しずつ手をつけた努くんが、ぽつりと言った。 その言葉に、胸が熱くなる。 「ほ……ほんとに?!」 「嘘をついてどうする」 「だって……あ、じゃあ、じゃあ、またお弁当作ってきてもいい?」 「そりゃあ、まあ、」 「やったー!ありがとう、努くん!あたし、がんばって作るからね!」 努くんにおいしいって言ってもらえたし、またお弁当作ってもいいって言ってもらえたし、今日はなんて素敵な日なのかしら! 神様があたしに味方してるとしか思えないわ。 調子に乗ったあたしは、今日こそ言おうと思ってたことを切り出そうと、小さく深呼吸をした。 「あ……あのね。次の日曜とかヒマだったりする?昨日ね、愛しのマイファザーがスカイツリーの展望室のチケットくれたんだけど、努くん、一緒に行かない?」 そう、これはデートのお誘い。 でも、ただのデートじゃない。初デートなのだ。 努くんがキャプテンをしてるバスケ部は強豪って言われてるから、努くんもそれなり以上に忙しい。 あたしもそれはわかってるからあんまり言わなかったんだけど、やっぱりデートって憧れる。 付き合ってもうすぐ一ヶ月経とうというのに、まだ一回もデートというものに行ったことがないっていうのも淋しいじゃない。 「あー……」 もー、努くんてば相変わらずデートのお誘いにはなかなか煮え切らないんだから。 そーいえば、あたしが告白したときもこんな感じだったから、恋愛事に疎いっていうかウブなのかしらね。 ふと、忘れもしないあたしが告白したあの日のことが頭を過ぎった。 |