1 きらきらと朝日がまぶしい。 正門横の桜はすっかり葉桜になり、初夏の訪れを告げている。 5月の爽やかな風が吹き抜けて気持ちいい朝だった。 もう一度言おう。気持ちいい朝だった。過去形だ。 ……そう、この一瞬までは。 「夏希ちゃん、おはよ〜」 「げ……っ、春日!」 「春日、じゃないでしょー。オレこれでも夏希ちゃんより年上よー?」 そんなこたぁ知ってる。 目の前でへらりと笑うこの男……春日隆平。 一応、というか、普通に先輩なんだけど。 「うるさい、そんなの私の知ったことか。あんたが兄貴と同じバスケ部である以上は、あんたは私の敵なんだ」 「相変わらずつれないねー」 「あんたには関係ないだ、ろっ!」 「って?!」 いい加減あの間延びしたような口調で話しかけられるのも鬱陶しい。 私は持っていた手提げ(※習字セット入り)を振り回すと、それはそれは綺麗に春日の向こう脛にヒットした。 (あ、ちょっとイタそう) 「とにかく!毎度毎度いってるけど、もう金輪際、私に近づくなよ!いいな?!」 吐き捨てるようにそう言って、私は地味に悶えてる春日を放り出して校舎へと向かった。 あーあ、朝からサイアク。 こんな日に限って今日は大ッ嫌いな数学あるし。 どうすっかなー……。 「あれっ、岩村サンじゃん。おはよー!」 「寄るな津川。朝からウザい」 教室に向かうか、それともこのまま裏庭か屋上あたりにフケるか。 悩んでいた私に声をかけたのは、同じクラス(ついでにこいつもバスケ部員だ)の津川。 やたら空気の読めない発言が多く、クラスでもひときわ目立つその存在。 ただでさえやかましいのは好かないのに、加えてバスケ部員。 イコォル、顔を見るどころか声を聞くのすら鬱陶しい。 「そんなこと言わないでさー、今日数学の課題出てたじゃん?オレわかんなくてさー、教えてよ!」 「絶対イヤ。他の子に頼んで」 しかし、当の津川といえば、キャプテンである兄貴の妹……すなわち私がクラスメイト、ということに興味を示したのか、やたらと話しかけてくる。 「えー、だって森田も作倉もやってねーっていうんだよ!岩村サン、数学得意っしょ?ねー、頼むよー!」 「……、しつこいって、言ってるだろっ!」 「ぅわっ?!」 朝から春日に会うし津川に話しかけられるしでムシャクシャしてた私は華麗に津川の鳩尾に回し蹴りを決めると、その勢いで階段を駆け上がった。 ああ、もう、めんどくさい。 |