1 「珍しいっスね、夏希がオレの家に来たいって言うなんて」 「何よ、ダメなの?」 軽く睨みを利かせれば、「そんなことはないっスけど」と、苦笑混じりに返ってきた。 翌日。 「一緒に見たいDVDがあるから黄瀬の家に行きたい」と声をかければ、少し悩んだあとで「別にいいっスけど」と、承諾の返事が。 第一段階はこれでオッケー。 普段あたしたちのデートといえば部活帰りにマジバに寄ったりするくらいで、色気も何もあったもんじゃない。 中学生のデートなんて、まあ、そんなもんだろうけどさ。 よくよく考えてみれば、黄瀬の家に行くのだって今日が初めてだ。 (付き合いはじめたのがそもそも割と最近だからっていうのもあるけど) ……ともかく。 あたしのかばんの中には、緑間から借りたDVDがしっかり入っている。 今日、さつきにさりげなく 「フランダースの犬って知ってる?」 と、聞いたところ、 「あれを見て泣かないのは人間じゃないよ。大ちゃんとか」 と、返ってきた。まあ、青峰は青峰っていう生き物だし。それは仕方ない。 さつきの感性は割と人並みだと思うから、やっぱりフランダースの犬は感動モノなんだろう。 黄瀬も女の子に対してはややドライだけど、赤司とか青峰にイビられてよくヘコまされてるし、仲いいヤツらといるときは喜怒哀楽そこそこあるし、平均からそう大きくズレてるってことはないだろう。 ……と、いうわけで。 「着いたっスよ」 たどり着いたそこは、一等地でこそないものの、そこそこ高級感溢れる住宅街。 こいつ、こんなとこに住んでたのか。 悲しいかな、極普通の賃貸マンションに住む平凡な一般庶民の身としては、なんだかこの雰囲気は落ち着かない。 っていうか、黄瀬のくせにムカつく。 「そんなこと言わないでよ。オレが選んだわけじゃないんスから」 苦笑混じりに言われたそれは、まあ、確かに正論で。 むしろ黄瀬が選んだんならこの場で殴ってる。 (もちろん、なんとなく) 「ま、ね。それよか、今日あんたん家、誰かいるの?」 「多分母さんがいるっス。夏希が来るって言ったら晩飯張り切って作るって」 へー、黄瀬のお母さんかぁ。そういえば試合のときにいろんな部員の家族を見るけど、黄瀬のお母さんは見たことないなぁ。 やっぱりこいつのお母さんなんだし、美人なんだろうなー。 |