3 「岩村サーン!」 4時間目の終わりのチャイムが鳴ると同時にオレは動いた。 窓際の席の彼女と、廊下側の席のオレ。当然、オレが有利。 「……私、あんたがそこどかないと昼飯ないんだけど」 どうやら今日は食堂か購買らしい。 席を立って教室から出ようとした彼女の進路を塞ぐように立てば、心底嫌そうに顔を歪ませた。 (なんだろう、やっぱりオレ岩村サンの嫌がることにかけては天才かもしんない) 「えー、岩村サンが質問に答えてくれたら間に合うよ?」 多分ね。と心の中で付け加えて、じりじりと彼女ににじり寄ると、小さく呻いて後ずさった。 なんていうか、岩村サンって小型犬みたいだよなー。チワワとかそんな感じの。 そんなことを考えてるうちにも、微妙な間合いを計るようにしながら岩村サンが動く。 「ぜってーヤだけど一応聞いてやる。何?」 「んー。岩村サン、毎朝早いけどどこにいるのかなって」 ……一瞬。目を逸らせた彼女の普段とは違う表情。 しかし、それを見せたのはほんの一瞬で。 次の瞬間、思い切り舌打ちして吐き捨てるように言った。 「却下。ぜってー教えねーし。特にあんたには」 「えー、そんなこと言わないでさ!」 教室の向こうの方で、 「津川ぁー、あんま岩村さんいじめんなよー」 と、森田の声がした。 いじめるなんて、そんなまさか! だけど、森田の声に気を取られたその一瞬。 どん、と体に衝撃が走った。 あ。と気付いたときには、突き飛ばされたオレは、盛大に尻餅をついていたのだった。 (げらげら笑ってる作倉がムカつく) 「ってー……あ!」 気がつけば。 岩村サンは、昼休みでごった返した人混みの中に紛れて消えてしまった。 あーあ、残念だなぁ。 ……でも、さっき。オレが朝何してるかって聞いたとき、見せたあの表情は何なんだろう。 普段見せない彼女のあの表情が、少しだけ。 オレの頭に引っ掛かっていた。 |