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「岩村サーン!」

4時間目の終わりのチャイムが鳴ると同時にオレは動いた。
窓際の席の彼女と、廊下側の席のオレ。当然、オレが有利。

「……私、あんたがそこどかないと昼飯ないんだけど」

どうやら今日は食堂か購買らしい。
席を立って教室から出ようとした彼女の進路を塞ぐように立てば、心底嫌そうに顔を歪ませた。
(なんだろう、やっぱりオレ岩村サンの嫌がることにかけては天才かもしんない)

「えー、岩村サンが質問に答えてくれたら間に合うよ?」

多分ね。と心の中で付け加えて、じりじりと彼女ににじり寄ると、小さく呻いて後ずさった。
なんていうか、岩村サンって小型犬みたいだよなー。チワワとかそんな感じの。

そんなことを考えてるうちにも、微妙な間合いを計るようにしながら岩村サンが動く。

「ぜってーヤだけど一応聞いてやる。何?」

「んー。岩村サン、毎朝早いけどどこにいるのかなって」

……一瞬。目を逸らせた彼女の普段とは違う表情。
しかし、それを見せたのはほんの一瞬で。
次の瞬間、思い切り舌打ちして吐き捨てるように言った。

「却下。ぜってー教えねーし。特にあんたには」

「えー、そんなこと言わないでさ!」

教室の向こうの方で、
「津川ぁー、あんま岩村さんいじめんなよー」
と、森田の声がした。
いじめるなんて、そんなまさか!

だけど、森田の声に気を取られたその一瞬。
どん、と体に衝撃が走った。
あ。と気付いたときには、突き飛ばされたオレは、盛大に尻餅をついていたのだった。
(げらげら笑ってる作倉がムカつく)

「ってー……あ!」

気がつけば。
岩村サンは、昼休みでごった返した人混みの中に紛れて消えてしまった。

あーあ、残念だなぁ。
……でも、さっき。オレが朝何してるかって聞いたとき、見せたあの表情は何なんだろう。

普段見せない彼女のあの表情が、少しだけ。
オレの頭に引っ掛かっていた。


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テーマ「人外ファンタジー」
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