8


コロナの街に戻ったときには辺りはすっかり夜でした。
本当なら、今頃は晩ご飯を食べている頃でしょうか。

汚れてしまった指輪をそのまま渡してもいいものか……その問題が、わたしの足取りを重くしていたのでした。

「あっれ。ヴィオじゃん!」

突然、背後からぽんと背中を叩かれました。
振り向くと、そこには。

「ルー……!」

「どうしたのさー、元気ないね?」

「実は、ですね……」

わたしはルーに、マスターから指輪を預かったこと、ユリアを探してコロナ中を駆け回ったら指輪をなくして今度はリュッタを探したこと、裏山での出来事、そして……今一番の問題の、指輪が汚れてしまったことを説明したのでした。

「ふーん……?ね、ヴィオ。つまりさ、その指輪がキレイになればいいってことだよね?」

わたしの話を聞いたルーは、何やら少し考えると、そう切り出しました。

「はいです……」

「じゃあさ、ちょっと着いてきてよ。あたし、心当たりあるんだ!」

「ほんとですか?!」

「うん。あ、こっちこっち!」

ルーに案内されるままにやってきたのは、スラムの一角にあるアクセサリーショップでした。
"ダナの店"……店先のプレートには、そう書いてありました。

「ダナ、いるー?」

中に入ってルーが呼び掛けると、店の奥から人影が現れました。

「なんだい、ルーじゃないか。どうしたんだい、こんな時間に珍しいね?」

出てきたのは、独特の雰囲気を持つ美人さんでした。
この人が、ダナでしょうか?
ルーが手早く説明をすると、ダナはふぅんと唸り、わたしの持つ指輪を見ました。

「ああ、確かにかなり汚れてるねぇ。それじゃ指輪がかわいそうだから、キレイにしてあげるよ。ちょっと貸してみな」

「お願いします、です……」

ダナが指輪をきれいにしてくれている横で、ルーがわたしに耳打ちしました。

「大丈夫だよ。ダナはね、宝石とかの扱いにかけちゃコロナでは右に出る人なんていないんだから」

「何を言ってるんだい、褒めたって何も出てきやしないよ……ほら、ヴィオレット。できたよ」

ダナから手渡された指輪は、マスターから預かったときと同じように、きれいに輝いていました。

「うわぁ……!ありがとうございます、ダナ!……あ、あの、お代、」

しかしダナは、くすりと笑って言いました。

「いいわよぉ、あんたルーの友達なんだろ?それくらいはサービスだよ。もしあんたが冒険でアクセサリーが必要になったら、そのときはうちを贔屓にしておくれよ」

「はいっ、わかりました!ありがとうございます、ルー、ダナ!」



そしてわたしは、ようやくユリアに指輪を届けることができ……酒場に帰ったときには、もうすっかり夜になってしまったのでした。

「お、ヴィオレット。随分遅かったな。届け物は無事に済んだか?」

「はいっ!いろいろありましたが、ちゃんと指輪はお届けしたのですよ!」

「そうかそうか、ありがとうよ。また何かあったら、よろしく頼むぜ!」

本当にいろいろあった一日でしたが、無事にお届けできてよかったのです。
それに、いろんな人とお話することもできました。
充足感に包まれて、その晩はとてもよく眠れたのでした。


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