3 行政地区と学術地区のちょうど中間に、神殿はあります。 そういえば前を通ったことはありますが、中に入るのはこれが初めてかもしれません。 他とは違う、何と言うのでしょうか……そう、神聖な雰囲気です。 その静寂を破らないよう、そっと扉を開けると。 「わっ!」 まさか、すぐそこに人がいるとは思わなかったので、つい大きな声が出てしまいました。 アルターみたいに筋肉質の、青い神官衣を着たお兄さんです。 「あ、すみません。大丈夫でしたか?」 「はい、大丈夫なのですよ。ちょっとびっくりしただけなのです」 「すみません、驚かせてしまって。ちょうど、扉の掃除をしていたものでしたから」 そう言ってお兄さんは、少し手に持った雑巾を上げました。 「こちらこそ、ごめんなさいです」 「いえいえ。そういえば、あなたはあまり見ない方ですね。冒険者の方ですか?」 「はいっ!酒場のマスターにお世話になってるです。レンジャーのヴィオレットですよ!」 「ヴィオレットさんですか。私はこの神殿に仕える、モンクのシェリクといいます。もし、冒険に必要でしたらお声かけ下さい。困った人を助けるのも、私たち神殿で働く者の勤めですから」 そう言うとシェリクは、にこりと笑いました。 温かい、優しい笑顔です。 聞けばモンクというのは、神様に仕えるので剣などは使わないけれど、拳を使った武術で戦うのだそうです。 そして、今まで出会った人たちと違うのは、なんと回復魔法も使えるというのです! 「はいっ!よろしくお願いします、シェリク!」 「こちらこそ、よろしくお願いします。……そういえばヴィオレットさん、今日はどういったご用件で神殿においでに?」 は……っ! そうでした、新しい仲間ができたことでついうっかりしていましたが、わたしは今お使いの真っ最中です。 「あの、わたし、ユリアを探してここまで来たですが……ユリアはここにいますか?」 「ユリアさん、ですか。ユリアさんなら、先程確かに来られましたが……」 「ほんとですかっ」 しかし、シェリクは少し眉を下げました。 「ですが、お祈りを終えられて帰られる際に足をくじいておられましたので……もしかしたら、診療所へ向かったかもしれませんね」 なんということでしょう……またしても、入れ違いなのです。 診療所、ですか。 この間無理を言って出てきたので少し行きづらいですが……仕方ありません。 「ありがとうございます、シェリク」 「いえいえ。また今度はゆっくりいらしてくださいね。お気をつけて」 そう言って手を振るシェリクに見送られ、わたしは診療所へ向かうことにしました。 |