1 「ヴィオレット、ちょっといいか」 それは、レーシィ山での事件から数日後のことでした。 まだ包帯は取れませんが、もう簡単な雑用ならできるくらいには回復しています。 今日は特に依頼もなさそうですので、マスターのお手伝いをしているところ……なのですが。 「はい、何でしょう?」 「店の手伝いは今日はもういいから、ちょっとお使いを頼まれて欲しいんだが」 「お使い、ですか」 するとマスターは、戸棚の奥から小さな何かを取り出しました。 「ああ、この指輪を政務室にいるユリアに届けて欲しいんだ。以前頼まれてたものが、ようやく手に入ってな」 「わあ、きれいです」 マスターの手に乗っているのは、赤い石と透明の石がきらきら輝く指輪でした。 「今回はコロナの街中だし、前みたいに魔物に出会うこともないだろう。報酬もちゃんと出すし……やってくれるか?」 「はいっ!もちろんなのですよ!」 「じゃあ、よろしく頼むぜ!お前さん、まだコロナで手柄を立ててないから本来なら行政地区には入れないんだが、今回のお使いの間は特別に入れるようにしてあるからな」 「ありがとうございますマスター!じゃあ、いってきまーす!」 マスターから指輪を受け取って、大事にポケットの中へ。 酒場を出ようとしたわたしの背中に、マスターの声が飛んできました。 「あ、ヴィオレット!それ、貴重なもんだからな!絶対になくすなよ!」 「はーい、もちろんですよー!」 大切な依頼の指輪です、絶対になくすわけにはいきません。 一度ポケットを触って指輪を確認して、わたしは酒場を出発しました。 行政地区は学術地区のすぐ隣にあるようで、見覚えのある景色を通りながら政務室を目指しました。 学術地区に来るときに、騎士さんたちがたくさんいて何だか雰囲気が違うな、と思ったのはきっと行政地区だからですね。 政務室は行政地区の中でもいっとう大切な場所のようで、高い鉄格子の門と二人の騎士さんとで厳重に守られていました。 うう、さすがにこれは緊張します……! |