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「お帰りなさいませ、碧翠様」

「ん。フィズ、食事の用意は……なんだい、これは」

昼前から外で薬草を探し、戻ってきてみれば。
控えめにではあるが、しかし普段とは明らかに異なる、赤と緑――ささやかに金色も――の飾り付けと、その飾り付けをしている張本人のフィズが私を出迎えた。

「クリスマス、ですよ。本当は碧翠様が戻る前に終わらせたかったのですが……柊やポインセチアなどを飾ってみました。ツリーもすぐに用意できますよ」

本当はもう少し早くからシュトーレンなども用意できればよかったのですが、と苦笑する。

なるほど、言われてみれば……そういえばもう12月も終わりだったか。
一人でいた時間があまりにも長すぎて、そういった行事はあまり気にすることなどなかった……が。
(もっとも、先代といた頃だってあれはそのようなことを気にするような人ではなかったからなおさらだが)

「クリスマス……か、」

「……どうかされましたか?」

ぽつりと小さく呟いた私のその言葉を零すことなく拾い上げたフィズは小さく首を傾げる。

「いや……その、」

誰が言ったか、この世の全てを知り尽くし、知らぬことは存在しない……とまで評されたこの私が。
長らく人と関わらぬようにしていたとはいえ……まさか、クリスマスというものを知識としてしか知らぬ、など。

「……大昔の聖職者の誕生日は、こう祝うものなのか?」

それは相当間の抜けた質問だったのだろう。
(ええい、自分で思い返してもそう思う)
豆鉄砲喰らったような表情でぱちぱちと瞬きを繰り返したフィズは、くすりと柔らかく微笑んだ。

「そういえば、貴女はずっとここで……一人で居たんでしたね」

少し悲しげにフィズは眉を下げる。
どこまでも優しく、私を気遣う眼差しが向けられる。

「そんな顔をするでないよ。私はそれを悔いているわけではないんだから」

気休めでも、ましてや嘘でもなく。
望んだものではないかもしれぬが、確かに私は自分の意思でここにいたのだから。


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