2 「碧翠様」 暫しの沈黙、思考ののち。 フィズは漸くその目を上げる。 「なんだい」 「クリスマス……確かに今は本来の意味合いとは異なる行事やもしれません。――でも、」 そこで一度言葉を区切り。 そっと私の手を取った。 「それでも、私にとっては……貴女様と過ごせるというだけで。それだけで特別な日に成りうるのですよ……雪、」 フィズにだけ告げた、フィズしか知らぬ私の名。 ずっと呼ばれることはないと思っていたその名を呼ばれると、少々くすぐったい。 ――まったく。 この男はどうしてこうも、 「ふ……ふふ、」 「どうかされましたか?」 「いや……お前の言う通りだと思ってね。確かにお前と過ごす時間は他の何にも替えがたい」 いつの間にか。 それほどまでに、私の中でフィズの存在は大きくなっていたということか。 フィズに再会するまでは、私の運命を変える者など現れぬと……そう、思っていたのに。 誰かと行事を共にするなど、訪れぬと思っていたのに。 「光栄です。……華やかなイルミネーションも、賑やかな音楽もここにはありませんが……私には、貴女とここで穏やかにクリスマスを過ごすことが幸せなのですよ」 そう言うと、フィズは私の手にそっと何かを握らせた。 「ツリーのてっぺん……最後の飾りは、貴女が」 握らされたそれは、金色に輝く星のオーナメント。 「子供扱いするでないよ」 「雪にとっては、初めてのクリスマスですから」 にこりと笑顔で返されれば、反論する術などあるわけもなく。 子供のようで照れ臭いながらも、満更でもない気持ちで星のオーナメントをツリーの頂点へ飾り付ける。 けして大きくはないが、いかにもといったツリーらしいツリーが完成した。 「……今まで。私は人に関わることを恐れてきた。このようなイベントなど、以っての外だった。……でも。おかしなものだが、今はそれを少し楽しみにしている自分がいるのだよ」 するとフィズは、くすりと笑って言ったのさ。 「それは私も同じですよ。雪」 去年までとは異なる年末のこの日。 しかし満更不愉快ではなく、むしろ心地好い。 ……願わくば。 これから幾度となく訪れる四季折々の様々な行事を。 来年もそのまた先も、また同じように。などと、柄にもなく思ったことは……ふん、もうしばらくは黙っておこうかね。 |