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「碧翠様」

暫しの沈黙、思考ののち。
フィズは漸くその目を上げる。

「なんだい」

「クリスマス……確かに今は本来の意味合いとは異なる行事やもしれません。――でも、」

そこで一度言葉を区切り。
そっと私の手を取った。

「それでも、私にとっては……貴女様と過ごせるというだけで。それだけで特別な日に成りうるのですよ……雪、」

フィズにだけ告げた、フィズしか知らぬ私の名。
ずっと呼ばれることはないと思っていたその名を呼ばれると、少々くすぐったい。

――まったく。
この男はどうしてこうも、

「ふ……ふふ、」

「どうかされましたか?」

「いや……お前の言う通りだと思ってね。確かにお前と過ごす時間は他の何にも替えがたい」


いつの間にか。
それほどまでに、私の中でフィズの存在は大きくなっていたということか。

フィズに再会するまでは、私の運命を変える者など現れぬと……そう、思っていたのに。

誰かと行事を共にするなど、訪れぬと思っていたのに。


「光栄です。……華やかなイルミネーションも、賑やかな音楽もここにはありませんが……私には、貴女とここで穏やかにクリスマスを過ごすことが幸せなのですよ」

そう言うと、フィズは私の手にそっと何かを握らせた。

「ツリーのてっぺん……最後の飾りは、貴女が」

握らされたそれは、金色に輝く星のオーナメント。

「子供扱いするでないよ」

「雪にとっては、初めてのクリスマスですから」

にこりと笑顔で返されれば、反論する術などあるわけもなく。

子供のようで照れ臭いながらも、満更でもない気持ちで星のオーナメントをツリーの頂点へ飾り付ける。
けして大きくはないが、いかにもといったツリーらしいツリーが完成した。

「……今まで。私は人に関わることを恐れてきた。このようなイベントなど、以っての外だった。……でも。おかしなものだが、今はそれを少し楽しみにしている自分がいるのだよ」

するとフィズは、くすりと笑って言ったのさ。

「それは私も同じですよ。雪」


去年までとは異なる年末のこの日。
しかし満更不愉快ではなく、むしろ心地好い。

……願わくば。

これから幾度となく訪れる四季折々の様々な行事を。
来年もそのまた先も、また同じように。などと、柄にもなく思ったことは……ふん、もうしばらくは黙っておこうかね。



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