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「まー、紗雪さま。それにセーレさま。今からお出かけになりますの?」

氷月がいるならば氷月に声をかけて行こうと思ったのだけれど、生憎今日はまだ帰ってきていないようだ。
さすがにこの時間から無断で出歩くのは気が引けたのでキッチンにいたシルビィに声をかければ、その丸い目を更に丸くして瞬きを数度繰り返した。

「1時間だけだよ。それに、ちゃんとここまで送るから心配しないで」

セーレのその言葉に、シルビィはにこりと頷いた。

「そうですか。せっかくのクリスマスですし……お気をつけて行ってらっしゃいませ。お兄様にはうまく言っておきますわ」

シルビィの言葉にほっと胸を撫で下ろす。
ヴィルトはあれで過保護な面もあるので、こんな時間(とは言ってもまだ夕方だ)から出歩くのはあまりいい顔はしないだろう。
そう考えると、キッチンにいたのがシルビィで助かった。

「セーレさま、紗雪さまをよろしくお願いしますわね」

「うん、大丈夫。任せておいて」

行こう、と差し出された手に私の手を重ねる。
行ってらっしゃいませ、と見送るシルビィの声を背に、私たちは夕闇迫る街へと歩き出した。

不思議なもので、屋敷から少し離れればがらりと様相が変わり、次第にきらきらとしたイルミネーションで彩られた建物が増えてきた。

「……綺麗」

初めて見るその光景にくらりと目が眩みそうになる。
なんて、綺麗な。

「紗雪。はぐれないよう気をつけて」

繋いだ手に少し、力が込められる。
痛いのではなく、心地好く力強い。
私もそっと、彼の手を握り返した。


やがて大通りを抜け、人通りも少し少なくなってきた。

「このツリーがね、一番綺麗なんだよ」

広場を少し奥に行ったところにあるツリーの前で、セーレは言った。

大通りにあったツリーは青々とした立派な樅の木に金や銀のいかにもクリスマス、という飾り付けがされていたものだったけれど、目の前のツリーは真っ白な樅の木に青な赤の飾りがついたもの。
まるで……、

「このツリーをみたとき、紗雪みたいだなって思ったんだ」

少し頬を染めて、セーレが言った。

「私は……セーレみたいだと思ったけれど」

真っ白に浮かぶ赤と青は、私の隣に佇む彼によく似ている……と、思う。

それは、お互いの贔屓目でしかないのかもしれないけれども。


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