3 「しっかしまあ、」 じろじろと上から下まで眺めて、一言。 「似合わ……プッ!」 「うるせぇそれはさっきも聞いた」 未だ俺の格好を見てげらげら笑い続ける黎夜を視線で牽制すれば、悪ィ、とあまり悪びれた様子のない声が返ってきた。 「それはそうと、まひるチャン、どこ行くつもりだったンだ?その格好で」 「ああ、ラジオ塔だよ。そこに、こいつを届けに行く」 ぽんぽんと懐を叩けば、黎夜は何やらひとしきり一人で頷いたあと、そうだ、と手を打った。 「よーしよし、オレも一緒に着いて行ってやるよ!カワイーまひるチャンが変な男にナンパされねぇようにな!」 お前以上に変なヤツもそうそういねぇよ……と、ツッコミたかったが、口調こそおどけてはいるが、黎夜の視線は真剣そのものである一点を睨んでいた。 つまり、俺と同行した方が都合がいいらしい。 「……仕事の邪魔はするなよ」 「そりゃーもう」 踵を返した俺の後をにこにこ……いや、ニヤニヤしながら着いてくる。 とはいえラジオ塔はそう遠い場所ではなく、少し歩けばすぐに正面玄関が見える。 その玄関脇に、見覚えある立ち姿。 「月代姉さん」 「あら、まひるさん。遅かったじゃない、貴方にしては……あら?そちらの方は?」 「ああ、こい……彼は、」 「どうもォ、まひるクンのお友達の黎夜でーす」 姉さんの問いに俺が答えるより早く、黎夜は俺の肩にのし掛かり遮った。 と、いうか姉さんの前でそのノリはやめろ……姉さんは何より礼儀を重んじる。 そんな姉さんの前でこの態度。 後でぜってー小言が待ってる。 それを覚悟して内心ため息をついた、そのとき。 「そう……黎夜さん。まひるさん、ずっとお役目で内々のことばかりしているから、お友達が少ないんじゃないかって心配してたのよ。これからも、よろしくしてあげてくださいね」 それは、初めて見た月代姉さんの一面。 そういえば、今まで交友関係についてあまり話したことがなかった気もするが、これはこれで気恥ずかしい。 しかし当の黎夜はと言えば、にんまり笑ってこう言った。 「そりゃもう、トーゼン!」 柄にもなくその言葉に、小さな笑みが零れた。 【おまけ】 「そういやお前、一体何から隠れてたんだ?」 月代姉さんと別れた後、ステーションまでの道中。 ふと、さっきから引っかかっていた疑問を投げてみた。 「あー、あれな。いや実はお前に会うちょっと前に時雨を怒らせちまってよー。ほとぼり冷めるまで隠れてようかなーってな」 相変わらずというかなんというか……まあ、それなら。 「背後に気をつけるんだな」 「へ?背後?」 「こんなところに居たのか……探したぞ、黎夜」 「げ?!時雨ッ?!」 「すまないな、まひる。このバカがまた迷惑をかけたようだ」 「あー……いや、大丈夫だよ」 「そうか。では、早々で悪いが私達は ちょ っ と 急 用 があるので失礼する」 何かしら言葉の裏に感じるものがあったのは、聞かなかったことにしよう。 「まひるチャーン、また遊ぼうぜぇー」という言葉を残しつつ時雨さんに引き摺られている黎夜を見送り、エンジュへの帰路についた。 今日予定していた昼寝はできなかったし、一番知られたくないことを知られたくないヤツに見付かったりもしたけれど。 「まぁ、こんなのも悪くねぇかな」 |