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「……うわ」

人の多さに、思わず引いた。
さすが休日のコガネ。
エンジュも観光シーズンは人が増えるが、それでも年中人で溢れているコガネには敵わない。

人混みは、嫌いだ。
さっさと用を終わらせて、エンジュへ帰ろう。
そう思って一歩踏み出した、そのときだった。

「あっれ。そこにいるのはまっひるちゃん〜?」

――振り向くな。
本能が全力で警鐘を鳴らしている。
しかしそんな抵抗虚しく、がつっと肩を組まれる。

「……黎夜か」

「ひゃハハッ!ひっさしぶりィ〜?おいおい、どうしたンだよ、そんなにおめかしシてさぁ?つか、そんな趣味があったのな」

ニヤニヤと黎夜は上から下まで俺の服装を眺めて笑う。
最悪だ。
だから、会いたくなかったんだ。

「……仕事だよ」

お役目で外出するときは、正装することが義務付けられている。
それはまあいいとして、その服装が問題だった。

――古代より神に仕える者は無性でなくてはならない。
その仕来たりにより、ちとせの一族は代々役目に当たる際、女ならば狩衣を、男ならば袿を着るのが慣わしとなっている。……そしてそれは、俺のようにその家に属するポケモンにも適用されるわけで。

かいつまんで事情を説明すると、お前ンとこも大変そうな、と、おざなりな相槌が返ってきた。
(なら聞くな)

「そういうお前こそ、何でこっちに来てんだよ。ホウエン回ってんじゃなかったか?」

逆に尋ね返すと、黎夜は待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

「オレ様達はバカンスだぜぇ〜?どーだ、羨ましイだろ」

皆もステーションにいる、と、親指で自らが来たであろう方を指す……が。

「嘘だな」

立春を過ぎたとはいえまだまだ寒いジョウトに、ただの休暇で来るとは考えづらい。
ましてや、コイツだけでなくゼルさん達も動いてるなら尚更ではないのか。

すると黎夜はヒャハッと笑みを浮かべ、口を開いた。

「まひるチャン、読心術は反則だぜェ?」

「うるせぇよちゃん付けすんな」

つまり、肯定。

「ま、じゃあまひるチャンにはちょっくらオレ様とデートでもしてもらおうかな」

「ふざけん、」

な、と言おうとしたところで、シッと指で制された。
どうやら、気付かれたくない相手が近くにいたらしい。

「マスターが行動起こすまでのちょっとの間でいいんだよ。付き合ってもらうぜェ」

「は……?ちょっと待、」

相変わらず人の話を聞かない。
俺の言葉が終わるより早く、コイツは俺の腕を掴んだ。


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