2 「……うわ」 人の多さに、思わず引いた。 さすが休日のコガネ。 エンジュも観光シーズンは人が増えるが、それでも年中人で溢れているコガネには敵わない。 人混みは、嫌いだ。 さっさと用を終わらせて、エンジュへ帰ろう。 そう思って一歩踏み出した、そのときだった。 「あっれ。そこにいるのはまっひるちゃん〜?」 ――振り向くな。 本能が全力で警鐘を鳴らしている。 しかしそんな抵抗虚しく、がつっと肩を組まれる。 「……黎夜か」 「ひゃハハッ!ひっさしぶりィ〜?おいおい、どうしたンだよ、そんなにおめかしシてさぁ?つか、そんな趣味があったのな」 ニヤニヤと黎夜は上から下まで俺の服装を眺めて笑う。 最悪だ。 だから、会いたくなかったんだ。 「……仕事だよ」 お役目で外出するときは、正装することが義務付けられている。 それはまあいいとして、その服装が問題だった。 ――古代より神に仕える者は無性でなくてはならない。 その仕来たりにより、ちとせの一族は代々役目に当たる際、女ならば狩衣を、男ならば袿を着るのが慣わしとなっている。……そしてそれは、俺のようにその家に属するポケモンにも適用されるわけで。 かいつまんで事情を説明すると、お前ンとこも大変そうな、と、おざなりな相槌が返ってきた。 (なら聞くな) 「そういうお前こそ、何でこっちに来てんだよ。ホウエン回ってんじゃなかったか?」 逆に尋ね返すと、黎夜は待ってましたと言わんばかりに口を開いた。 「オレ様達はバカンスだぜぇ〜?どーだ、羨ましイだろ」 皆もステーションにいる、と、親指で自らが来たであろう方を指す……が。 「嘘だな」 立春を過ぎたとはいえまだまだ寒いジョウトに、ただの休暇で来るとは考えづらい。 ましてや、コイツだけでなくゼルさん達も動いてるなら尚更ではないのか。 すると黎夜はヒャハッと笑みを浮かべ、口を開いた。 「まひるチャン、読心術は反則だぜェ?」 「うるせぇよちゃん付けすんな」 つまり、肯定。 「ま、じゃあまひるチャンにはちょっくらオレ様とデートでもしてもらおうかな」 「ふざけん、」 な、と言おうとしたところで、シッと指で制された。 どうやら、気付かれたくない相手が近くにいたらしい。 「マスターが行動起こすまでのちょっとの間でいいんだよ。付き合ってもらうぜェ」 「は……?ちょっと待、」 相変わらず人の話を聞かない。 俺の言葉が終わるより早く、コイツは俺の腕を掴んだ。 |