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「…カナエ、カナエってば!」

「え、あ、ごめん風音。どうかした?」

どうかした、じゃないわよぅ。
ヤドンの井戸から帰って来てから、カナエの様子がおかしい。
なんだかボーッとしてて…何て言うんだっけ。心ここに在らず…うん、そんな感じ。
蒼衣が大怪我したから、そのせいかとも思ったんだけど、どうもそれだけじゃないっぽいし。
翡翠もなぎも治療中で、部屋にはアタシとカナエだけ。
もう、こんな湿っぽいのは苦手なのよぅ!

「ね、アタシは中に行ってないから中の様子がどんなだったかわからないんだけどさ…何か、あったの?」

とうとう我慢できなくなって、アタシはカナエに尋ねた。
するとカナエは明らかに動揺し…やがて、ぽつりぽつりと語り始めた。

「中にね、ロケット団が居たの。ヤドンのしっぽ、切るために。私、聞いたのよ。どうして、って」

じわり、とカナエの目尻に涙が浮かぶ。
カナエは続ける。

「そしたらね。ただ、お金が必要なんだ、って。それだけのために…ヤドンを傷つけて、蒼衣を、渚楽を、翡翠を傷つけて…自分の手持ちのポケモンさえ、捨て駒みたいに扱って、」

ひっく、と鳴咽が漏れ、静寂が部屋を支配する。

「ね、カナエ。アタシたち、強くなるからさ。そしたら、そいつボコボコにしてやろうよ」

アタシだって、そんな奴…許さない。
だから、と、アタシは続ける。

「ほら、そのひどい奴の特徴教えてよ!アタシ、空からでも見付けたらすぐにやっつけるからさ!」

そういうとカナエはやっと少し笑って、言った。

「緑の髪をした、怖いくらい綺麗な男の人、だよ」

「え…?」

ちょっと待って。
アタシは必死で記憶を手繰る。

「どしたの、風音」

「どしたも何も…アタシにカナエたちを助けに行くよう言ってくれたの、多分その人よぅ」


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