1 じゃあね、と私たちとヒビキくんはヨシノシティのポケモンセンターの前で別れた。 夜には少し早いけれど、キキョウシティに行くには少々距離があるので、今夜はヨシノシティに泊まることにしたのだ。 受付を済ませ、部屋に向かう。 「ポケモンセンターって、回復だけじゃなくて宿泊もできるんだねぇ」 ゲームのポケモンには泊まるという概念がないから知らなくて当然といえば当然なんだけど。 「わーい!ベッド!ふかふか!!」 部屋に入るなり、駆け出したのは翡翠。 ポンとベッドに飛び込み、ふかふかと弾む。 「あんまり跳ねちゃだめだよー」 はぁい、と返事が聞こえて来たが、まだしばらくはベッドの感触を楽しんでいる翡翠。 そんな翡翠を微笑ましく思いながら、抱いていた風音をベッドの端に下ろしてやる。 「今日はここに泊まるんだよ」 持っていた荷物を下ろし、一度中身を広げる。 これから旅が始まるのだ。 できるだけコンパクトに纏めておかないと。 傷薬はこっちで、ボールはこっちで… 「チコ!」 「どうしたの、翡翠。お腹すいた……って、あれ」 声のした方を向くと、そこには元のチコリータの姿をした翡翠。 は、と蒼衣の方を確認すると、蒼衣はまだ少年の姿を保っていた。 「あらま…翡翠、疲れちゃったんだねぇ」 無理もない。翡翠は初めての擬人化だ。 蒼衣も2回目とはいえ昨日からずっとだ。今晩にでも、元の姿に戻るかもしれない。 今日は早めに宿にきて、正解だったかもしれないな。 |