1 「そういえば、」 ワカバタウンを出発してしばらくして。 隣を…正確には、蒼衣の隣を歩くヒビキくんが言った。 彼は博士のおつかいだとかで、隣のヨシノシティまで同行することになった。 いくらゲームで訪れたことがあるとはいえ、実際歩いてみるとどこがどこだかさっぱりわからないから有難い。 このタイミングからすると…おそらくは、ポケモンじいさんがタマゴを発見したんだろうか。 彼は続ける。 「カナエさん、こっちにきて1日くらい経つけど…家の人とか心配してんじゃないの?」 翡翠は外の世界がよっぽど嬉しいのか、キョロキョロ辺りを見回しながら歩くから、はぐれないようにするのが大変だ。 そんな翡翠に気を配りつつ、私は答えた。 「大丈夫…だと、思うよ。私、一人暮らしだし…今、学校も休学してるし」 聞かない方がいいと思ったのか、それとも興味を無くしたか。 ふーん、とヒビキくんは呟いて、黙り込んだ。 それはどちらも本当で、 「カナエ、悲しい?」 小さな手でぎゅ、と私の手を握りながら、蒼衣は言った。 「大丈夫、悲しくないよ」 確かに、最初は不安で不安で仕方なかった。 でも、今は蒼衣が居て、翡翠が居て、そしてウツギ博士にヒビキくん、コトネちゃんが居る。 「カナエちゃんカナエちゃん!」 少し先を歩いていた翡翠が、何かを見つけてあわてて戻ってきた。 「どうしたの、翡翠」 「大変大変!あっちでポッポが怪我してる!」 「え?!」 「カナエさん、急ごう」 無言で頷き、私たちは翡翠のあとに続いた。 |