1 ヴヴ…ヴ… どうしたものかと扉の前で立ち尽くしていると、ポケギアのバイブ音が響いた。 急いで確認すると、先程慌ただしく電話を切ったヒビキくん。 「…もしもし?」 なるべく声が響かないように小声で電話を取る。 「あ、カナエさん!今どこにいるの?」 「ラジオ塔の3階…まで来たんだけど、扉がロックされてて開かなくて、」 恐らくロックがかかってるからだろう。 私がいる、扉の外側には見張りは誰もいない。 「マジ?!ちょ、多分それ開けられる!今オレすぐ近くまで来てるから、そのままでいて!」 言うが早いか、ヒビキくんはあっという間に電話を切った。 『ヒビキ、何だって?』 「んー…なんか、扉を開けられるからこっちに向かってるって。風音、とりあえず一度戻る?」 『そーね。まだ先に何があるかわかんないし、体力はとっとくに越したことはないわ』 「うん、ありがとね風音」 私は風音をボールに戻して、壁際にもたれ掛かる。 すると本当にすぐ近くだったらしく、程なくして階段を昇ってくる足音が聞こえた。 「カナエさん!」 「あ、ヒビキくん」 「準備万端できたのに下に誰もいねーからびっくりしたよ。カナエさんが倒したの?」 「う…うん。あと、シルバーくん、」 その名前が出た途端、ヒビキくんの目が驚きに見開かれた。 「シルバー?!なんであいつが…、」 「わからない…私が来たとき、もうここにいたし」 「今は?」 「ロケット団とのバトルが終わったら、どこかに行っちゃった」 私がそう答えると、ヒビキくんは少し残念そうな顔をした。 「そっか、」 「うん…でも、多分シルバーくんがポケモンを思う気持ちは、私たちとそんなに変わらないと思うよ。ただ、ちょっと不器用で、やり方を間違えちゃっただけじゃないかな」 「そんなもんなのかな?」 よくわかんねーや、と、ヒビキくん。 「あ、そうだ。そうじゃなくて、はい、カナエさん」 思い出したようにヒビキくんがポケットから取り出したのは、1枚のカード。 つまりこれは、 「カードキー?」 「うん、多分ここの…だと思う。そう言ってたし」 「……誰が?」 すると、ヒビキくんは。 思いもしなかった名前を口にした。 「ラムダさん、って人」 「…!」 先日、チョウジの地下で出会った…正体不明の、ロケット団員。 「ら…ラムダさんは?」 「なんか、"そろそろここに居るのもヤバそうだから"って、オレにこれを渡して…そのまま、どっか行ったよ」 「…そう、」 何故か私は、落胆した。 もしかしたら…私はラムダさんともう少し話をしてみたかったのかもしれない。 |