1 「さむ!え、ちょっと寒いんだけど!」 一歩足を踏み入れると、そこは氷点下の世界。 まるで冷凍庫の中にいるような錯覚を起こす。 私の記憶が確かなら、確か今は夏だったと思うんだけども。 「風音ー、それ寒くないの?」 今回のジムは氷タイプということで、風音は出る気がないらしい。 昨日の宣言通り、早々に擬人化して、戦う意志がないことを示している。 大きく肩の開いた着物は見てるだけでも寒そうで。 「寒いに決まってるじゃない。なんなのよぅ、このジム!」 ならボールに入っておけばいいのに、と思ったが、それも嫌らしい。 ふと横を見れば、「ご自由に」と書かれた貼紙の隣に、防寒着が数着吊ってある。 寒いのはごめんだと、私たちは遠慮なくそれを借りることにした。 「とにかく、さっさと終わらせてこんなとこ出ましょ」 と、まあ、そういうことで。 先日、炬が進化したおかげで氷タイプ相手にはだいぶと有利に勝負を進めていくことができたので、たいした負担ではないんだけど。 中のトレーナーといえば、ボーダーやスキーヤーなど、正に雪国を想像させる人達ばかり。 今の時期に表で見るのは暑そうだけど、このジム内ではむしろ私の軽装の方が浮いて見える。 おまけに、 「床滑るしさぁ、」 氷点下に凍り付いたジムの床は、気を抜くと転んでしまう。 (現に、さっきから何度も尻餅をついている。きっと、明日には青アザになってるんだろうな) (いや、それよりも霜焼けか。真夏に霜焼けとか洒落にならないので勘弁してほしいんだけど、とにかく) 「あ、挑戦者さんですね!」 目の前に現れたのは、ボンボンのついたニット帽がかわいいスキーヤーの女の子。 ちゃき、とゴーグルを上げて、先頭体勢に入る。 「じゃ、いっきますよー!」 そう言って彼女が繰り出したのは、丸い身体がかわいいウリムー。 なら、 「翡翠!」 昨日、ジムに挑戦すると言ってくれた翡翠。 タン、と着地すると、頭の葉っぱをブンと一回振り回した。 『任せてよ、カナエちゃん!』 そして、バトルが始まった。 |