1 「うー…」 あれから数時間。 荒波に揉まれて遥々(と、いうほどでもないかもしれないが)私はタンバシティへと辿り着いた。 タンバシティの北端。 どうやらそれが、今私が居るところのようだ。 道中、蒼衣たちについて話すとはいったものの、碌な説明ができた記憶がない。 すっかり頭からずぶ濡れで、風に吹かれると当然だが寒い。 『じゃあ、私はこの辺りにいるから。用が終わったら、戻ってきてちょうだい』 「うん、ありがと。すぐ戻ってくるよ」 私がそう言って走り出そうとすると。 パウワウは、くすくすと笑った。 「…?私、何か変なこと言った?」 『あら、だって貴女。見ず知らずの私の言葉をあっさり信じるんですもの。もし、私がそのままアサギに帰ったら、貴女どうするつもり?』 …言われてみれば、それも一理あるかもしれない。 でも、 「大丈夫。君はそんなことしないって…そんな気がするから」 きょと、とパウワウは私を見つめ、 『冗談よ、ちゃんと待ってるから。ほら、お行きなさいな!』 「ありがとう!行ってくるね…っと」 どうしようかな、と迷った結果、翡翠と炬を呼び出した。 (翡翠はすぐに擬人化したが、炬は「めんどくさい」と、言ってガーディのままだ) 「カナエちゃん…頭ふらふらする、」 『かっ、なっさけないなぁ自分。見てみぃあたしなんぞピンピンしとるわ』 水に強いはずの翡翠がダウンしていて、水が苦手なはずの炬はケロリとしている光景がなんだかシュールだ。 これは翡翠の酔い醒ましと…帰りの酔い止めももらわないといけないな、なんて思いながら、今度こそ。 私たちは、タンバの薬屋さんを目指して、走り出した。 頭上を何かが横切った気がしたけれど。 上を見上げる余裕なんて、そのときの私にはなかった。 |