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歌が、聞こえる。
高く、よく通るソプラノ。

ら、らら、ら…

まだ歌はよく聞き取れない。
歌っているのが、誰かもわからない。
私はもう少し、踏み出した。

そこは開けた海岸で、辺りに人影はない。
おかしいな…確かにこっちから聞こえたと思ったんだけど。
さくさくと砂が足元で音を立てる。
少し身体も冷えてきた。
そろそろ部屋に帰ろうかな、と思い始めた、そのとき。


生命の源 母なる海よ

深く碧く 煌く水面
麗しきは 輝く珊瑚
美しきは 清らなる真珠

さざめく波は 子守歌
荒ぶる波は 母の怒り

全ての恵を 与えし母よ……


透き通った、綺麗な歌声が響いた。
辺りをもう一度見渡すと、海岸近くに岩場。
…あそこから?

もう少しだけ、近付いてみる。
……と。

「カナエ」

振り向くと、少し眠そうな目をした蒼衣が立っていた。

「蒼衣…あんた、寝てたんじゃないの?」

蒼衣っていうか、みんなだけど。

「寝てた。でも、カナエが出ていく気配がしたから、」

別に何かしようと思って出て来たわけじゃない。
何となく寝苦しくて、夜風に当たりたくて。
少し、夜の散歩のつもりだったんだけど。

「…それでも夜は危ないよ、カナエ」

口に出してはいなかったが、蒼衣にはお見通しだった。

「はいはい。ありがとうね、着いて来てくれて」

蒼衣を起こしちゃったみたいだし、他のみんなが起きてないとも限らない。
そろそろ部屋に戻ろうとした、そのとき。

『誰か…誰か、そこにいるの?』

蒼衣のでも私のでも、もちろん今部屋で寝ているはずの誰のものでもない声が、夜の海岸に響いた。

それは美しいソプラノの、


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