1 「あんまり気乗りしないなぁ…」 どん、と目の前にそびえ立つのは、エンジュジム。 …念のために言っておくと、別にゴーストタイプが怖くて後込みしてるわけじゃなく、単純に 「だってマツバさんと会うんでしょ?無理無理、私マツバさん苦手なのよー」 マツバさんに会うことを何としてもスルーしたいのだが、無情にもジム入口の看板にはご丁寧に"エンジュシティ ジムリーダー マツバ"と書かれている。 つまり、入ったらマツバさんまで一直線というわけで。 『なに阿呆なこと言うてんねん。さっさ行くで』 『そうそう、あんなの気にしちゃ駄目よぅ』 『大丈夫よ、カナエちゃん。何とかなるわ』 ジム入口で悩む私とは対象的に、やる気に満ち溢れている。 (そのやる気を分けて欲しいものだ) 『お…俺はできればカナエちゃんに賛成かなぁ…なんて、』 『僕は…、うん』 目が泳いでいる翡翠に、俯き加減の蒼衣。 相性的にゴーストが苦手な蒼衣はともかくとして、 『翡翠、あんたもしかしてオバケとか怖いんでしょー?』 ニ、と楽しそうに風音は翡翠をからかう。 『ば…っ!怖くなんかないよ!』 声に動揺が現れているのは聞かなかったことにしてあげよう。 「うーん…」 『女は度胸言うやろ!覚悟決めぇ』 『カナエちゃん。マツバさんだって、悪い人じゃないわ』 なんだか、なぎにそう言われたら行くしかないじゃない。 まあ…今避けたところで、またいずれ戻って来ないといけないし。 …それに、ここで会わなくても、マツバさんとは…また会う気がする。 確証はないけど、そんな予感。 盛大に溜息をひとつついて、私は扉に手をかけた。 |