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「カナエ、行こうよ」

立ち尽くす私に声をかけたのは、風音だった。
マツバさんにミナキさん…か。
不思議な人たちだったなぁ。
彼等が立ち去ってから、しばらく経った。
もう、この塔から出て行った頃だろう。

「そだね」

「な、カナエちゃん。ここ出たら何か食べようよ。俺、さっきから腹減ってるんだ」

翡翠はどうやら進化して育ち盛りみたいで、よく食べる。
そんな翡翠に苦笑したが、そういえば私もそろそろ小腹が空いた気がする。

「ねぇ、カナエ。アタシ、さっき通った店のお団子食べたいなぁ」

「あ、俺も!」

「じゃあ、そうしよっか!」

そうと決まれば切り替えが早いもので、さっきまでの微妙な空気はあっという間に吹き飛んでいった。
おいしいものを食べる幸せは、人間もポケモンも共通なのだ。

降りて来たとき同様、ギシギシ軋む梯子を上り、1階部分に出る。

翡翠が先に地上に上り、私と風音を引き上げる。
灰だか土埃だかで全身すっかり埃だらけになってしまった。
ぱんぱん、と叩くと真っ白な埃が舞い散る。
地下に居たせいか、空気が新鮮に感じる。

ふと、塔の入口で人の動く気配がした。
誰だろう…?

「カナエちゃん、あいつ…」

その"誰か"から視線を外すことなく、押し殺した声を出す翡翠。
翡翠の視線を辿った先には、

「あ…、」

燃えるように赤い髪。
鋭い目付き。
あれは…、

「シルバー、くん…」

金銀編の、ライバル。
まさか、こんなところで。

「ねぇ、君…!」

何か考えがあったわけじゃないけれど。
気付いたら、彼を呼び止めていた。


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