1 「カナエ、行こうよ」 立ち尽くす私に声をかけたのは、風音だった。 マツバさんにミナキさん…か。 不思議な人たちだったなぁ。 彼等が立ち去ってから、しばらく経った。 もう、この塔から出て行った頃だろう。 「そだね」 「な、カナエちゃん。ここ出たら何か食べようよ。俺、さっきから腹減ってるんだ」 翡翠はどうやら進化して育ち盛りみたいで、よく食べる。 そんな翡翠に苦笑したが、そういえば私もそろそろ小腹が空いた気がする。 「ねぇ、カナエ。アタシ、さっき通った店のお団子食べたいなぁ」 「あ、俺も!」 「じゃあ、そうしよっか!」 そうと決まれば切り替えが早いもので、さっきまでの微妙な空気はあっという間に吹き飛んでいった。 おいしいものを食べる幸せは、人間もポケモンも共通なのだ。 降りて来たとき同様、ギシギシ軋む梯子を上り、1階部分に出る。 翡翠が先に地上に上り、私と風音を引き上げる。 灰だか土埃だかで全身すっかり埃だらけになってしまった。 ぱんぱん、と叩くと真っ白な埃が舞い散る。 地下に居たせいか、空気が新鮮に感じる。 ふと、塔の入口で人の動く気配がした。 誰だろう…? 「カナエちゃん、あいつ…」 その"誰か"から視線を外すことなく、押し殺した声を出す翡翠。 翡翠の視線を辿った先には、 「あ…、」 燃えるように赤い髪。 鋭い目付き。 あれは…、 「シルバー、くん…」 金銀編の、ライバル。 まさか、こんなところで。 「ねぇ、君…!」 何か考えがあったわけじゃないけれど。 気付いたら、彼を呼び止めていた。 |