5 「よし、お腹いっぱいになったしそろそろ行こうか!」 流石に森で野宿はちょっと遠慮したい。 荷物をまとめて、立ち上がる、と。 「あれ…あの人、」 艶やかな着物姿。 見覚えのある横顔。 ヨシノシティで出会った…舞妓の、 「タマオさん!」 え、と彼女は振り返る。 私たちは走って彼女に近付く。 「まあ、貴女カナエはんとちやいますの」 相変わらずコロコロとした美しい声で言う。 「お久しぶりです、」 タマオさん、と続けようとすると、彼女は静かに首を横に振った。 「ちやいますよ、カナエはん。私とあんさんは"はじめまして"」 「え、だって…」 「申し遅れました。私はコウメ。舞妓のコウメどす。あんさんがお会いになった、タマオの妹になります」 嘘だ、だってこんなにも 「そっくり、ですやろ?」 楽しそうに、からかうように、コウメさんは言った。 「まあ、それはそうと。カナエはん、おめでとうございます」 「え、あ、はぁ…」 うっかり頷いたけれど、何におめでとうなのかさっぱりわからない。 「ようやっと、目覚めはったみたいで…お母様も、これで一安心ですやろ」 「あの、だから…!」 「まあ、でも、カナエはん」 ぴたり、と私の言葉を遮って、コウメさんは続ける。 「まだもう少し、あんさんの知るには尚早…まだ私からは、何も言えません」 縁が"合"ったら、また。 そう言って、コウメさんは静々と歩きだし、そしてぴたり、と止まって一度振り返った。 「ところで、この森の出口…どっちですやろ?私、道に迷ってしもたみたいで」 コロコロと、それはそれは美しい声でコウメさんはそう言った。 笑った拍子に髪飾りが揺れ、シャラシャラとまるで鈴の音のようだった。 |