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おいでませ、おいでませ
彼岸の姫君、我等の姫君

目覚めませ、目覚めませ
愛しき姫君、我等が姫君

約束の塔で、我等は眠る
おいでませ、愛しき姫君

我等を呼ぶ、透き通る声
我等を見る、曇りなき眼

目覚めませ、彼岸の姫君
我等の紡ぐ、声無き声を

貴女の耳で、貴女の心で
聞かれ給え、我等が姫君




遠く、近く
前で、後ろで

どこからか響いてくるような声に導かれ、私は歩く。
私はこの声を知っている。
どこか懐かしい、温かい声。
私はこの声を知っている。知っているけれど、知らない。

導く声が段々と遠ざかる。
遠ざかり、そして。
一陣の風が吹いた。

『ちょっとそれ俺のきのみじゃないか』
『明日も晴れるかなぁ』
『痛い!何すんのよ!』

風と共に、ざあ、と声の波が一気に押し寄せてくる。
誰、誰の声なの?
辺りはしーん、として私以外誰もいない。

辺りに居るのは、野性のキャタピーやパラスたち。

私以外、人間は、誰もいない。
これは…もしかして、

『カナエ!』

がさがさ、と茂みを掻き分け、蒼衣が走ってくる。
ラルトスのままの、蒼衣が。
え、でも、今私の名前呼ばなかった?

蒼衣はぎゅう、と私の足にしがみつく。

『カナエ、突然どこか行くから心配した』

間違いなく、ラルトスの蒼衣だけど、何でか私は蒼衣の言葉がわかるわけで。

「ごめんね、蒼衣。何かに…呼ばれた気がしたの」

すると蒼衣はきょと、と私を見上げ

『…?カナエ、僕の言葉わかる?』

私は相俟に笑って頷くしかできなかった。

「ごめんね、皆のところ戻ろうか」

私はそう言って立ち上がり、初めて辺りを見渡した。


そこは、小さな祠の前だった。


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