8 「き…君、」 え、と声のした方を振り向くと、そこには私がさっきまで目指していた長老様その人。 そうだ、ここには私たち2人だけじゃない。 あっちゃー、翡翠が人型になるところを見られてしまったか… 慌てて翡翠が私の後ろに隠れる。 「あの…ええと、」 予想外だった。 翡翠がここで人型をとってしまったのは。 どう説明したものかと言葉に詰まる。 「訳あり、かの?」 一瞬、或いは数瞬の沈黙。 答えに困った私を見て、長老様はそう切り出した。 少し悩みながらも、私は小さく頷いた。 「無理には話さずともよい。話したくなければ、儂は見なかったことにでもしよう」 にこり、と笑って長老様は言った。 その優しさになんだか少し涙が出そうになった。 「ありがとう、ございます」 「もう夜も遅い。これを持って、宿へ帰りなさい」 ぎゅ、と私の手に握らせてくれたのは、手の平より少し小さな、 「…種?」 「それは奇跡の種といっての。草タイプのポケモンに力をわけてくれるじゃろう」 「あの、でも…私、バトル…!」 「人間とポケモンとの絆を試す、このマダツボミの塔…君達の絆、しっかりと見せてもらったよ」 柔らかい笑みを浮かべて、長老様は言った。 「近頃ではこういった場所に来る者もめっきり減っての。また、旅の途中にでも君達の顔を見せておくれ」 「はい!」 マダツボミの塔から出てきた頃にはすっかり夜で、見上げれば空には満天の星空が広がっていた。 「カナエちゃん、楽しそう?」 「そうだね、翡翠。すごく楽しい…と、いうより嬉しい、かな」 まだまだ出会ったばかりの私たちだけれど、少しでも認められた気がして。 「カナエちゃんが嬉しいと、僕も嬉しい!」 ぎゅ、と繋いだ手の力が少し強くなった。 私も負けじと、翡翠の小さな手を握り返した。 見上げた夜空は透明で、なんだか吸い込まれそうだった。 |