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「き…君、」

え、と声のした方を振り向くと、そこには私がさっきまで目指していた長老様その人。
そうだ、ここには私たち2人だけじゃない。

あっちゃー、翡翠が人型になるところを見られてしまったか…
慌てて翡翠が私の後ろに隠れる。

「あの…ええと、」

予想外だった。
翡翠がここで人型をとってしまったのは。
どう説明したものかと言葉に詰まる。



「訳あり、かの?」

一瞬、或いは数瞬の沈黙。
答えに困った私を見て、長老様はそう切り出した。
少し悩みながらも、私は小さく頷いた。

「無理には話さずともよい。話したくなければ、儂は見なかったことにでもしよう」

にこり、と笑って長老様は言った。
その優しさになんだか少し涙が出そうになった。

「ありがとう、ございます」

「もう夜も遅い。これを持って、宿へ帰りなさい」

ぎゅ、と私の手に握らせてくれたのは、手の平より少し小さな、

「…種?」

「それは奇跡の種といっての。草タイプのポケモンに力をわけてくれるじゃろう」

「あの、でも…私、バトル…!」

「人間とポケモンとの絆を試す、このマダツボミの塔…君達の絆、しっかりと見せてもらったよ」

柔らかい笑みを浮かべて、長老様は言った。

「近頃ではこういった場所に来る者もめっきり減っての。また、旅の途中にでも君達の顔を見せておくれ」

「はい!」



マダツボミの塔から出てきた頃にはすっかり夜で、見上げれば空には満天の星空が広がっていた。

「カナエちゃん、楽しそう?」

「そうだね、翡翠。すごく楽しい…と、いうより嬉しい、かな」

まだまだ出会ったばかりの私たちだけれど、少しでも認められた気がして。

「カナエちゃんが嬉しいと、僕も嬉しい!」

ぎゅ、と繋いだ手の力が少し強くなった。
私も負けじと、翡翠の小さな手を握り返した。

見上げた夜空は透明で、なんだか吸い込まれそうだった。


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