3


指を少し広げたくらいの小さなお椀…お猪口というらしい…に、なみなみと注がれた液体をじっと見つめる。
本当にこれが飲み物なのか。

一同はしばらくテーブルに置かれたそれらを見つめていたが、やがてひょいと手が伸びた。
風音だ。
意を決したように唾を飲み込むと、ぐいとその液体を流し込む。
一瞬、ニ瞬。
皆が固唾を飲んで見守る中、ぱちぱちと風音は瞬きをすると、こう言った。

「あらヤダ、案外いけるじゃないのよさ」

すると現金なもので、炬や垂、なぎもそれに手を伸ばす。

「あら、本当。意外に…、」

「うーん…私はちょっと苦手かしら…?」

一口口に含み、それぞれの感想を漏らしたとき。
それは起こった。

「ふふ…くっくく、くく、」

部屋の中に、笑い声が響く。

「ちょっと炬、さっきから――、」

キ、と垂は炬を睨み付ける…が、炬はきょとんとした表情で垂を見つめ返す。

「あたしちゃうよ」

「え、じゃあ誰が……、」

うふふ、と笑い声はまだ続く。
ゆっくりと視線を少しずらせば、その答えはそこにあった。
笑い声の主はふらりと突然立ち上がり、足元おぼつかなく歩き始める。

「風音…ちゃん?」

笑い声の主…風音は、くるくると舞うように回転すると、ぺたりとその場に座り込み、そして。

「……すー、」

すよすよと気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
一瞬の、出来事だった。

「何…今の」

「さあ…ようわからんわ」

そして炬はぐいと自分のお猪口に入ったそれを一気に飲み干した、次の瞬間。

「……あかん、」

「え、炬ちゃん?!」

ぱたり、と炬もその場に崩れ落ちる。
しかし、異変はそれだけに留まらない。
ひっく…ひっく、と啜り泣く声が近くから聞こえた。
なぎは嫌な予感を感じつつ、そちらに目をやる…と、

「炬が…炬が、倒れちゃった…、」

「し…垂ちゃん…?」

ぽろぽろと大粒の涙を零しているのは、なんと信じられないことに垂だ。
いつもは見せない彼女の涙に、なぎも戸惑いを隠せない。

どうしたものかと途方に暮れた、そのとき。

「ただいまー」

「ただいま…って、ちょっとこれどういうこと?!」

屍累々。
帰ってくるなり目にしたその光景に、カナエも翡翠も、蒼衣ですら顔を引き攣らせている。

「……カナエ、これ」

目ざとく蒼衣が見つけたのは、湯煎にかけられた徳利。

「とっくり…って、あんたたち、まさかお酒飲んだの?!」

呆れた、とカナエは大きく息をつく。

「カナエちゃん、どうしよう…、」

今にも泣きそうな声で渚楽が縋り付く。
やれやれと再びため息をついて、カナエは言った。

「一晩でも寝たら、多分元に戻るよ」



――そして翌日、3人がかつてないほどの頭痛に見舞われたのは……言うまでも、ない。


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