触らぬ神に祟りなし


「「「お代わり!」」」

そう言って同時に差し出されたお茶碗…いや、丼鉢みっつ。
既におかずと言えるおかずはなくなって、漬物だけが机に並んでいる。

「え、あんたたちまだ食べるの?」

私たちはアサギシティのポケモンセンターの食堂で遅目の朝食をとっている。
今日は早速だけどアサギジムに行こうかな、なんて思いながら腹ごしらえをしていた…のだけれど。
私や蒼衣、渚楽はこの光景も見慣れたものだけど、パーティに加わったばかりの垂は唖然とその様子を見ている。
(ちなみにまだ擬人化は慣れないようで、パウワウの姿をしている)

『何て言うか…すさまじいわね』

「すぐに慣れるよ。毎回だから」

『…そう、』

もう何も言うまいと、垂は自分の食事に戻る。
蒼衣となぎは食事を終え、傍観の体勢に入っている。
なおも3人の食事風景はヒートアップする。

「あー!風音、それ俺のたくあん!」

「あーごめんねぇ。アタシの、もうなくなっちゃったからさぁ」

さして悪びれる様子もなく、翡翠のお皿から失敬したたくあんを口に運ぶ。
すると便乗するように炬もひょいと翡翠のお皿に箸を伸ばす。

「あ、あたしももう漬物ないなってん。もらうで」

「ちょ!塩でも振っとけよ!」

「阿呆。何でそんな味気ない食べ方せんならんねん」

ぱりぱりと小気味よい音を立てながら、炬はたくあんを口に放り込む。

「だからって人のを取んな!」

一皿のたくあんを巡って火花が散る。その一皿も、残りわずか。
箸で箸を攻めかわす攻防が始まった。

「かがりィ。あたし翡翠押さえとくからさぁ、そのお皿こっちやってよ」

「おう、任しとき」

「ちょ!2対1とか卑怯だし!」

ガチャン!
ガタガタ!
ゴッ!

机を挟んで戦いはますますエスカレートする。
うーん…そろそろ止めに入らないと、さすがにまずいかなぁ。
重い腰を上げようとした、そのとき。

ひゅん!
ガツッ!!

すぐ脇を何かがものすごい勢いで飛んでいった。
それは攻防を続ける翡翠たちの間を勢いよく飛んでいき、鈍い音を立てて壁にぶち当たる。

『貴方たちのたくあんがないのは勝手だけれど、もう少し静かにできないかしら?』

壁に当たったもの…それは、垂が生み出した氷のかたまり。
ゆっくりと一同の視線が垂に集中し、渦中の3人…翡翠と風音、炬は顔を青くし、すごい勢いで首を縦に振る。

『わかればいいのよ』

にこりと微笑んで、垂は食事を続ける。

「風音ちゃん、炬ちゃん」

そういえば姿の見えなかった蒼衣となぎがそこに立っていた。

「ふたりとも、漬物ならカウンターにある」

そう言って蒼衣は、風音と炬の前に漬物の小皿を置いてやる。

「あー、うん。知ってたんだけどね、行くのめんどくさくて」

「うん、ちょうど目の前にあったしな」

しれっとそんなことをのたまう2人に、

「そんな理由で人のを取るな!!」

と叫んだ翡翠の顔面に、垂の生み出した氷塊が叩き込まれたのは、言うまでもない。


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