五月病


「うーん…」

ごろり、と寝返りをひとつ。
ぽかぽか暖かくて、少し気だるい。
そろそろ、私が元居た世界はゴールデンウイーク。
今年こそ旅行に行くぞ、なんて意気込んでたけど、まさか旅行よりもすごいところに来ちゃったしなぁ。

なんてことを考えていたら、いよいよ布団から出られなくなってきた。
もう、みんな起きた気配がする。
でも、私は布団が恋しいのだ。
今日くらい、何もしなくてもいいよね。
そんなことを考えながら布団に包まると、翡翠が枕元にやってきた。

「カナエちゃん、朝だよ?」

ぺちぺち、私の頬をたたく。

「うーん…」

もぞり、と私は動く。

「どうしたの、しんどいの?」

「五月病〜…」

最初はこの世界に来て意気込んでいたけれど、慣れてきた今は少し中弛みで。
所謂、五月病。

すると翡翠は諦めたのか、私の傍から離れる。
よし、もうひと眠りしよう。
まどろみの中で、私は徐々に意識を手放した。



…どれくらい眠っただろうか。
太陽の位置を確認しようと軽く身を起こすと、額に何か乗っていたようで、それは枕元に落ちて来た。

「…タオル?」

手に取ると、少し濡れている。
部屋を見渡すと、誰も居ない。
遊びに行っちゃったかな?
今回ばかりは、あの子たちを怒れないなぁ、なんて考えていると、部屋のドアが開いた。

「カナエちゃん、起きた?!」

「翡翠…それにみんな、どこ行ってたの?」

「カナエが元気ないって翡翠が言うからさ…渚楽、」

「はい、カナエちゃん。みんなで集めたのよ」

風音に促され、なぎが差し出してきたのは、優しい色の小さな花束。

「カナエ、たまにはゆっくりしたらいいよ」

口には出さないけど、蒼衣には私が寝ていた理由なんてお見通しなんだろうな。

なんだか悪いことしちゃったかな、心配かけちゃったみたいだしな。

「みんな、ありがとね」

あと、ごめんね。
明日からはまたがんばるよ。

みんなが摘んできてくれた花を手に、こっそり私はそう思った。

つかの間の、休息。


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