小さい春、みつけた


「あったかくなってきたねぇ」

季節は春。
暖かい陽射しに誘われるようにして、様々な生き物が活発になる季節。

「僕、春が一番好き!」

やはり草タイプだからだろうか。
足取り軽く、スキップなどしながら翡翠が言った。
こんな日はお花見とかしたいよなぁ…そうだ。

「ねぇ、みんな。今からお花見に行こうか!」

我ながら名案である。
こんな気持ちのいい日に、のんびりとお花見するのは最高だ。
皆も異論はないようで、きゃきゃとはしゃいでいる。

「よし、そうと決まれば花見団子にお茶を用意しなくっちゃ!」

幸い、このキキョウシティは歴史ある街だからか、和菓子屋さんが通りにたくさんあった。
蒼衣たちにはその場で待っててもらい、くるりと今来た道を引き返し、いい匂いのするお店でみたらし団子を山ほど買った。
道中のトレーナーとのバトルで懐具合も温まっていたので奮発してしまった。
いいよね、たまには贅沢しないと!

ホクホクとお団子の入った袋を抱え、蒼衣たちが待つところに戻った…が。

「あれ…いない」

いないのだ。蒼衣も翡翠も風音も。
どこに行ったのだろうか。
3人で居るからまさか迷ったりはしないだろうし、そもそもこの場所で待っているはずだったんだけど。

うーん、と首を傾げたそのとき。

「わぁあああ!!」

少し離れたところから聞き覚えのある声。
翡翠だ。

何事かと声のした方に私は駆け出した。



そこは小さな花畑だった。
鮮やかな黄色のタンポポが一面に広がった花畑。

「カナエちゃん!」

悲鳴をあげた張本人、翡翠は私の姿を確認するなり走って飛び付いてきた。

「どうしたの、翡翠」

「カナエちゃん!か、風音が…!」

風音がどうしたのか、と翡翠の指差す方を向くと、ケラケラと笑う風音が居た。

「あはははは!翡翠、アンタ虫なんか怖いの?」

「こ…怖くないよっ!」

「そんな声震わせながら言っても説得力ないよ!」

言って風音は更に笑う。
そうか、翡翠は草タイプだから虫が苦手なのか。
ついでにいうと風音は飛行タイプなので、どうやら虫は平気らしい。
ひょいと小さなキャタピーを手に持って翡翠に見せている。
どうやらこのあたりもタイプが関係しているのか単に性格の問題か。
風音から逃げるように、私の後ろに隠れる翡翠。
私も虫はあんまり得意じゃないんだけどなぁ…

「はいはい、風音もそんなにいじめないの。さ、キャタピーを放して来たらおやつだよ」

はぁい、と風音は草むらにキャタピーを放しに行く。
さて…蒼衣が見当たらないんだけど…

「カナエ」

草むらから声がする。

「カナエ、こっちにきて」

声のする方に探しにいくと、屈んで何かをじっと見つめる蒼衣。

「何か居るの?」

これ、と指差したのは小さなてんとう虫。

「暖かくなってきたから出て来たんだねぇ」

ぽかぽか暖かい陽射しでなんだか眠くなってきた。

「ね、ここでお団子食べてお昼寝しよっか」

桜もいいけど、たまにはタンポポ畑でのんびりするのも悪くない。
私が提案すると、「賛成!」と返事が返ってきたので、先程買ったお団子を広げた。



そんな、春のある日。


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