3


おお…ぉ


何かを訴え続けるような、悲痛な叫び。
その声の主は、湖の真ん中辺りに居た。
あれは…、

「あ…赤いギャラドス…」

昨日話に聞いた、いかりの湖の真っ赤なギャラドス。
まさか、ほんとに現れるなんて。

「カナエ…あのギャラドス、」

湖の中央から目を逸らさないまま、蒼衣が呟いた。
蒼衣の言いたいことはわかる。

「うん…あのギャラドス、なんだか辛そう…」

辺りに響くその叫びは、まるでどうにもならないことを嘆くような、そんな色を帯びていて。

「何で…何が、あの子をあんなに悲しませてるんだろう…」

痛いくらい、悲しい叫び。



「…っ!カナエ!!」

ぐい、と突然腕を引っ張られた。
何が起こったかもわからず、引かれるままに倒れ込む、と、

「…っ!」

今まで私が立っていた辺りを、ギャラドスの吐いた光線が走っていった。

「あ…ありがと、蒼衣」

「それよりもカナエ…気をつけて、」

注意はギャラドスに向けたまま、私を庇うように蒼衣は立ち上がる。

池の中心で尚、暴れ続けるギャラドス。
水飛沫が飛び、水面は激しく波打ち、湖に浮かんでいた木片などがところ構わず飛んでくる。

「何なのよぅ、一体?!」

「わかんない…!風音、それにみんな!とりあえず逃げ、」

逃げなきゃ、と。
そう言おうとした私の耳に、その声は聞こえてきた。


『…し…。…ろ…て…』


え…?
聞いたことのない声だし、この訴えるような声色は多分…、

「待って!みんな、ちょっと静かにして!」

「ちょっとカナエ?!どうしたってのよ?」

「しっ!」

静かに、とジェスチャーで伝えると、納得しないながらもとりあえず従ってくれた。

耳を澄ませば、その"声"はやはり、湖の真ん中…赤いギャラドスから聞こえてきた。

『殺して……私を、私を殺して…!!』





それは、あまりにも悲しい願いだった。


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