1 チョウジタウン。 忍の隠れ里という名残の残る街。 近くにはいかりの湖があり、ジョウト地方を潤す水源豊かな土地。 名物は、いかりまんじゅう。 「いやぁ、絶品絶品。蒸したてをいただくのも、またオツなもんだわね」 あつつ、と手の平でまだ湯気の立っているおまんじゅうを転がしながら、風音は言った。 その和風な風貌と相俟って、時代劇のひとコマのようだ。 昼も少し過ぎた頃。 チョウジについた私たちは、小腹を満たすためにお茶屋さんに立ち寄った。 お目当てはもちろん、チョウジ名物いかりまんじゅう。 ちょうどおまんじゅうが蒸し上がる時間帯だったみたいで、できたてのあつあつをいただいたのだ。 「あら、垂。アンタ食べないの?」 3つめのおまんじゅうに手を伸ばしながら、風音はまだ一口も口にしていない垂に言った。 「ううん、熱いのは苦手で。少し冷めたら、食べるわ」 なるほど、氷タイプももっているせいだろう。 そういえばさっきから、冷たいお茶ばかりすすっていた。 「垂、アンタ何個くらい食べるの?いる分とっとかないとなくなっちゃうわよ」 風音の言う通り、彼女を始め翡翠や炬も人並み以上に食べるのだ。 冷めるのを待っていたら、お皿の上はからっぽになってしまう。 「そうね、じゃあふたつ。あとはみんなで食べちゃって」 既に今までの食事風景からそれを学習していた垂は、自分のお皿にふたつだけ取ると、大皿を風音の方にやった。 「やっりぃ!」 翡翠が早速手を伸ばす、と、すかさず風音がその手を叩いた。 「翡翠ぃ、アンタ、レディファーストとか知らないわけ?」 「そーゆーことみたいやわ。悪いな、翡翠」 何がレディファーストだよーお前らのが強いじゃんよ、と不満そうにしていたが、反論する根性まではないのか、翡翠は大人しく手を引いた。 (だから余計に風音たちも遠慮がなくなってくるんだろうけど、まあ、なんだかんだで風音たちも翡翠の分は残してるし) 「カナエ、このあとはどうする?」 蒼衣は既に満足したのか、お茶を口にしている。 「このあとねぇ…チョウジって、何かあったっけ」 うーん、と考えていると、 「お嬢ちゃん、観光かい?」 近くのテーブルを片付けていた店のおじさんが、話し掛けてきた。 「そうなんです。私たちチョウジって初めてで、」 そうかい、とおじさんは腕を組んで少し考え、そして、 「そういやぁ、最近いかりの湖に赤い色したギャラドスが出るって話だなぁ。俺は見たことないが、釣人たちの間じゃ今ちょっと有名みたいだなぁ」 赤いギャラドスかぁ…なんか嫌な予感がするんだけどなぁ。 「カナエちゃん、どうするの?」 「うーん…でも他にこれといってなさそうだし、行ってみる?」 それに、赤いギャラドスに興味もあるし。 「よし、今日はもう中途半端だし、明日湖に行ってみよ!」 百聞は一見に如かず。 とりあえず、明日湖に行ってみよう。 すっかり冷めたおまんじゅうを、垂がぱくりとおいしそうに口に運んだ。 |