Epilogue


気が付くと、私はあの日トリップしたスーパーの近くに立っていた。

お父さんが言った通り、どうやら時宮は私を元いた時間へと届けてくれたらしい。
向こうはあんなに天気がよかったのに、こちらはしとしとと小雨がちらついている。
ぼんやりと立ち尽くす私を通行人が不思議そうに見ていたけれど、そんなことは私にはどうでもよかった。

懐かしい喧騒。
その懐かしさに、何ともいえない感傷に包まれる。
私が生きるのは、理不尽で不条理だけど、それでも捨て切れないこの世界。

「……帰ろ、」

もしかしたら、ずっとここに居ればまた向こうへ行けるかもしれない……そんな思いを振り払うように、一歩。
私は重い足を踏み出した。

これは、私が決めたことだから。

当たり前といえば当たり前だけど、私は迷うことなく懐かしい我が家へと辿り着いた。
かばんの奥底から鍵を取り出して、かちりと回すと、重い扉はゆっくりと開く。

……え?

私はまだドアノブに手をかけていない。
この時間軸でいえば、そんなに長い外出でもなかったはず……なんだけど。
泥棒……?

私が動きを停止しているうちにも、扉は徐々に開き、そして。


「おかえり、カナエ」


そこに、居たのは。


「あ……おい?」

なんで。
どうして。

蒼衣ははにかむように笑うと、部屋の中を指した。

「みんなも居るよ」

すると、わらわらと先程別れを告げたばかりのみんなが顔を出した。

「カナエちゃん、おかえり」

「遅いわよぅ、もう帰ってたかと思ってたのに」

いろとりどりの、

「何で……どうして、」

この世界にいるはずがないのに。

「カナエちゃん、とりあえず立ち話も何だし中へ入りましょう?」

「せや、外雨やさかい寒いやろ」

何が何だかわからなくて、促されるままに懐かしい自分の部屋に足を踏み入れた。
なにもかもがあのときのまま。

「……カナエ?どうしたのよ?」

突然のことにぼんやりしていたが、垂の声で我に返る。

「え、あ……みんな、何でここに……、」

すると、翡翠と風音がニッと悪戯っぽく笑った。

「やっぱり俺達カナエちゃんと一緒がいいからさ。あのあと、千晃さんに頼んだんだよ」

「そーそ。カナエがいなくっちゃ、アタシら張り合いないしね」

その後を、蒼衣が引き継ぐ。

「……カナエ。僕たちはもうカナエを乗せて、飛んだり泳いだりできない。守るための全ての力を失った。でも、カナエと一緒に居たい気持ちだけは変わらない」

だから、と。

「また僕たちと、一緒に居てほしい」

はらり、はらり。
涙が頬を伝う。

「そんなの、」

私が欲しかったのは、空を飛ぶための翼でも、波を切るための梶でもない。
私を守るためだなんて、私は元々そう思ってなかった。

「当たり前じゃない」

だって、私が本当に欲しかったのは、心から繋がりあえる大切な仲間……なんだから。


途端に、私の方へ押し寄せてきたみんなを支えきれずに、私たちは一斉に廊下へ崩れ落ち、そして誰からともなく笑い出した。


不思議な世界で巡り逢えた、私の大切な仲間たち。
お父さん、お母さん。
みんなと出会うきっかけをくれて、ありがとう。


私はこれからこの世界で、みんなと生きていくよ。
だから、心配しないで。


「あー、それにしてもお腹すいたわねぇ」

「あ、俺も同感」

笑いがようやく収まったところで飛び出したあまりにいつも通りのやり取りに、思わずまた笑いが漏れた。

「あははは、じゃあ晩御飯作ろうか!」

そうして流れていく、私たちの"いつも通り"の時間。
これから私たちは、この世界で生きていく――!


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