3 ごめんなさい、ごめんなさい……何度もお母さんは、私を離すことなく言い続けた。 ――しばらくその状態が続き、夕日が地平線に落ちる頃。 やがて、名残惜しむようにお母さんは私から離れ、じっと見つめる。 「……大きく、なったのね」 何だか照れ臭い。 今までお母さんに会ったことがなかったから、どう接していいかわからなくて、妙な気恥ずかしさを覚える。 (そりゃあ私たちだけじゃなくて、ここには蒼衣たちや舞妓さん、マツバさんもいるのだ) どうしていいかわからずもだもだとしていると、不意に温かい声が響いた。 『早苗、私も早くカナエにの顔を見たいんだが』 「あ、ごめんなさい千晃さん……私ばっかり、」 「ち……あき?」 ゆっくりと視線をお母さんの後ろ……ホウオウへと移動させると、お母さんはええ、と頷いた。 「そう、千晃さん。信じられないかもしれないけど……あなたの、お父さんよ」 『そうは言っても、これじゃ実感がないだろう』 確かに、私としてもホウオウを「お父さんだ」って言われても呼ぶのに抵抗がある。 すると次の瞬間、その姿はきらきらと黄金色の光に包まれた。 私は、この光を知っている。 その光はやがて小さくなり、そこに立っていたのは、目も眩むような赤銅色の髪に、透き通った蒼い瞳の男の人。 「カナエ……、」 その声は、春の日だまりのように温かい。 そっか、そういうことだったんだ。 だから、向こうの世界でお父さんの親戚は誰もいないんだ。 会うことなんてないと思ってたお父さん……やっと、会えたんだ。 そう思った途端、止まったはずの涙がぼろぼろと溢れ出した。 そんな私をあやすようにお父さん(まだ違和感がある)は背中をさすりながら口を開いた。 「マツバ君、それに、タマオさんたち。今まで本当に、ありがとう」 「いえ、このスズの塔と貴方を守るのが、僕の一族の使命ですから」 「そして、うちらはそれをサポートするのこそが本当のお役目……なんも御礼されるようなこととちやいます」 しかし、お父さんはゆっくり首を横に振った。 「いいや、今回の件に関しては私の我が儘も入っているからね……君達には、相応以上の手伝いを頼んでしまった」 本当にありがとう、と深く頭を下げる。 「まあま、そしたらうちらもカナエはんのお陰で楽しい思いもさせてもらいましたさかい、お相子いうことにしましょ」 タマオさんのその一言にみんながクスクスと笑い、その場はひとまず収まった。 |