6 それは、今から10年ほど昔の話だという。 小さな小さな時空の歪みが生まれた。 その歪みは、本来ならば放っておけばすぐに消えるような、特に気にするようなものではないはずだった。 はず、だった。 しかし、その歪みに思いがけない異変が起こった。 歪みを通って異世界の少女が一人、このジョウト地方へやってきた。 それは偶然か、それとも必然か。 少女が最初にやってきたのは、コガネシティ。 そこから様々な街を渡り歩いて、やがてエンジュシティへと辿り着いたという。 そんな、ある日のこと。 少女は虹に出会った。 虹は少女に恋をした。 虹は少女と同じになるよう、姿を変えた。 それはとても美しく、神々しい姿だった。 「共に生きよう」 虹は少女にそう言った。 少女は彼が自分と違う存在であることを知っていた。 しかし、少女はそれを受け入れた。 彼らは夫婦(めおと)となり、エンジュに住まった。 幾年幾月、月日は流れ、やがて少女は大人になった。 少女の胎内(なか)には新しい生命が宿っていた。 しかし、幸せは長くは続かなかった。 様々な組織が、勢力が。 虹を手に入れようと、また虹を意のままに操ろうと、彼が……そして、彼女が狙われた。 "彼ら"から逃げる中で、虹はひとつの決意をした。 「せめてお前たちは元いた世界に帰りなさい」 虹は彼女にそう言った。 しかし、彼女は凜とこう返した。 彼女の中にもまた、決意があった。 「いいえ、私はここに残ります。あなたは言いました……共に生きよう、と。ならば私はあなたの側におりましょう」 そうした中で生まれた御子(みこ)は、ならばせめてこの子だけでも安全なところへ、と。 彼女は時渡りの力を借りて、一度彼岸へと戻った。 そして御子は、彼らの手を離れた。 しかし、彼らは後悔していた。 やはり、自分達で守るべきだった……と。 御子は幾つになっただろうか。 彼らの中で我が子に会いたいという思いが募り、そして―― 歴史は、繰り返された。 |