2 「あ、ぼんぐりのおじさんの家」 ヨシノシティを出てすぐの道沿いに、見覚えのある民家が見えた。 がさがさとザックを漁ると、ぼんぐりケースが出てきた。 そういえば、結局ぼんぐりのボールって作ってもらうことはなかったなぁ。 ケースの中には、カラフルなぼんぐりがいくつか入っている。 赤、青、緑に黄色、ピンク、白…… そうだ。 「ねえねえ、みんな。ぼんぐりさぁ、その辺に植えていかない?」 私にはもう必要のないものだし。 ぼんぐりを植えておけば、いつかはきっと次の冒険者たちの役に立つだろう。 「あら、いいんじゃないソレ。おもしろそうじゃないのよさ」 案の定、真っ先に食いついたのは風音。 「そうね、自然がこうやって人の手で守られるのって素敵だと思うわ」 そう言った垂は、嬉しそうに目を細めた。 やっぱりこういう自然に関することに一番興味を示すのは彼女らしい。 「えっと……1、2……全部で7個かぁ」 「ほんなら、1人1個でええやん」 ちょうど7人やろ、と炬。 炬の言う通り、皆にひとつずつ手渡すと、ぼんぐりケースはからっぽになった。 緑は蒼衣。 ピンクは翡翠。 白は風音。 黄色はなぎ。 赤は炬。 青は垂。 それぞれに渡して、残った緑は私の手に。 「カナエちゃん、あっちの方に良さそうな土があるよ」 さすが翡翠は草タイプなせいか、ぼんぐりを植えるのに良さそうな土壌をすぐに見つけてきた。 翡翠の言うところまで行くと、確かに黒々とした柔らかい土が。 「大きくなるんだよー」 柔らかい土は手で簡単に掘ることができ、浅く掘って軽く土を被せると、鮮やかな緑は土の黒で見えなくなった。 私の埋めたところに少し場所を空けて、垂がそっと土を掘った。 「こうやって少しでも緑が増えていけばいいわね」 そして、私の植えたぼんぐりから同じくらい間隔をあけて炬。 「早ぅ大きぃなって、実をつけるんやで」 それに倣って、なぎも同じくらい距離を空けて土を掘る。 「あら、炬ちゃん。綺麗な花を咲かせるのが先だわ」 その隣に、風音。 「まあ、それよりも芽が出てくれないことにはねー」 そして、翡翠。 「大丈夫だよ。だって俺たちが植えたぼんぐりだろー?」 最後に、蒼衣がそっと土を掘った。 これで、私が植えたぼんぐりを囲むようにしてぐるりと6個のぼんぐりが植えられた。 「これで、あとは水を撒けばいいよ」 蒼衣が土を払いながら立ち上がると、垂が任せてと頷く。 垂にジュゴンに戻ってもらって水を撒くと、柔らかい土はよく水を吸い込んだ。 「ありがと、垂」 『いいわよ、それよりそろそろ時間じゃないかしら?』 垂に言われて時計を見れば、ヨシノを出てからおおよそ1時間。 「あら……ほんとだ。そろそろエンジュに向かわないと」 名残惜しいけど。 もう少し、ここに居たい気もするけど。 さっき延ばしてもらったこの時間だから、もう延ばすことはできないだろう。 原型に戻った皆をそれぞれボールに戻して、風音の背中に乗せてもらう。 「じゃあ、エンジュまでお願いね」 『りょーかい。んじゃ、行くわよぅ』 そして大きく羽ばたくと、ふわりと宙に浮いた。 さぁ、エンジュまで。 |