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『俺さ、』

静寂を破ったのは、翡翠の声だった。

『多分俺だけだよね。自分の意思じゃなくて、カナエちゃんに"選ばれた"のはさ、』

翡翠の言う通りだ。
蒼衣を始めとする翡翠以外の全員、自分の意思で私に着いてくることを決めている。
でも、翡翠は…翡翠だけは、私が選んだ。

『でもさ、カナエちゃんに選ばれたことで後悔したことなんてないんだよね』

不思議なことにさ、と翡翠は笑う。
じわりと目頭が熱くなった。

『だから、できることなら最後まで着いていきたいと思ってるし、カナエちゃんがどの道を選んでもそれは変えるつもりないよ』

つ、と頬を涙が伝った。

『あらぁ。アンタらだけじゃないわよぅ、言っとくけどさ』

え、と顔を上げれば、正面にいる風音やなぎと視線が合った。

『みんなの言うように、ここまで一緒に来たんだもの。カナエちゃんがどういう道を選んでも、私は着いて行くわ』

『なぎっちゃん、"あたしら"の間違いやろ?』

『そうよ、その一点についてはみんな同じじゃない』

なぎの言葉に、炬が、垂が続く。

すると安心したのか、塞きを切ったようにぼろぼろと涙が止まらない。
私、こんなに涙もろかったっけ?
なんだか最近、ほんとに涙もろくなってしまった気がする。

『ほら、泣きぃなや』

よしよしと炬が頬を擦り寄せた。

「ごめんね、みんな…まだ向こうに戻れるって決まったわけじゃないのに、」

でも、あるいは…やっぱり覚悟はしておかないといけない、から。

でも、みんなのおかげで覚悟は決まった。
この先、もしも選択しなければならないときがくれば、私は――、



「さて…と、そろそろ戻ろっか!」

もう迷わないし揺らがない。

そう思えるようになったのは、みんながいるから。

いつの間にか涙はすっかり引いていて、乾いた頬に夜風が当たった。

『カナエ、』

蒼衣が伸べた手をとって立ち上がれば、空が少し近くなった。

『行こう』

そして私たちの今日が終わる。
明日、エンジュシティで何があっても。

私の答えは、決まっている。


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