8 『俺さ、』 静寂を破ったのは、翡翠の声だった。 『多分俺だけだよね。自分の意思じゃなくて、カナエちゃんに"選ばれた"のはさ、』 翡翠の言う通りだ。 蒼衣を始めとする翡翠以外の全員、自分の意思で私に着いてくることを決めている。 でも、翡翠は…翡翠だけは、私が選んだ。 『でもさ、カナエちゃんに選ばれたことで後悔したことなんてないんだよね』 不思議なことにさ、と翡翠は笑う。 じわりと目頭が熱くなった。 『だから、できることなら最後まで着いていきたいと思ってるし、カナエちゃんがどの道を選んでもそれは変えるつもりないよ』 つ、と頬を涙が伝った。 『あらぁ。アンタらだけじゃないわよぅ、言っとくけどさ』 え、と顔を上げれば、正面にいる風音やなぎと視線が合った。 『みんなの言うように、ここまで一緒に来たんだもの。カナエちゃんがどういう道を選んでも、私は着いて行くわ』 『なぎっちゃん、"あたしら"の間違いやろ?』 『そうよ、その一点についてはみんな同じじゃない』 なぎの言葉に、炬が、垂が続く。 すると安心したのか、塞きを切ったようにぼろぼろと涙が止まらない。 私、こんなに涙もろかったっけ? なんだか最近、ほんとに涙もろくなってしまった気がする。 『ほら、泣きぃなや』 よしよしと炬が頬を擦り寄せた。 「ごめんね、みんな…まだ向こうに戻れるって決まったわけじゃないのに、」 でも、あるいは…やっぱり覚悟はしておかないといけない、から。 でも、みんなのおかげで覚悟は決まった。 この先、もしも選択しなければならないときがくれば、私は――、 「さて…と、そろそろ戻ろっか!」 もう迷わないし揺らがない。 そう思えるようになったのは、みんながいるから。 いつの間にか涙はすっかり引いていて、乾いた頬に夜風が当たった。 『カナエ、』 蒼衣が伸べた手をとって立ち上がれば、空が少し近くなった。 『行こう』 そして私たちの今日が終わる。 明日、エンジュシティで何があっても。 私の答えは、決まっている。 |