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「ふーん…カナエちゃんのお母さんらしい人が……ねぇ」

私の話を一通り聞き終えた博士は、腕を組んでうーんと唸る。

ポケモンじいさんの話や、エンジュの舞妓さんたち、フスベの長老様から聞いたことなどを、記憶の限り話した。
博士は驚きはしたものの、その話に横槍を入れることなく黙って、時折何か独り言のように呟きながら聞いていた。

そして。

「……カナエちゃん、もしもその人がカナエちゃんのお母さんとして、だよ。少し突拍子もないことだし、あくまでこれは仮説であり仮説でしかないんだけど……聞くかい?」

私は無言で首を小さく縦に振る。
博士はいいかい、と前置いて、口を開いた。

「この僕らが今生きているジョウト地方と、君が元居た世界。以前はそれが平行していると言ったけど、もしかしたら時間軸が…時間の流れる早さが、少しずれているのかもしれないね」

……相変わらず博士の思考はほんとにすごいと思う。
まったく思いつきもしなかったその仮定に、私はただただ呆然とする。

「時間軸が……、」

「うん、つまり…向こうの世界の方が、時間の流れが少し早いことになるね」

まあ、もしも本当にその人が君のお母さんなら…だけどね。と、付け加えて。
ううん、でもそうだとすれば辻褄は合う。
私の年齢と、"彼女"がこのジョウトで女の子を出産した時期が合わないことの。

「まあ、何にせよはっきりとわからない以上は決めつけるのは尚早だよ。それに…もしかしたら彼女は、君が元の世界に戻るための手掛かりかもしれない」

「元の…、」

「そう。消息が掴めない以上、もしかすると向こうの世界に戻っている…と、いう可能性もあるだろう?」

そうだ…すっかり馴染んでしまったけど、私は元々違う世界の人間。
いつまでここに居ることができるか……わからないんだ。

「そうですね…ありがとうございます」

「いや、研究の片手間にやってることだからね。これくらいは全然いいよ」

でも、これで新たな情報は得られた。
もしかしたら、舞妓さんたちがこのことについて何か知っている……かも、しれない。
研究所の次は、エンジュシティに行くつもりだったしちょうどいい。


「カナエちゃん、今夜はどうするんだい?」

ぼんやりと思考を巡らせていると、不意に博士がそう言った。

「今夜?」

「うん、時計をご覧」

指された壁時計を見ると、夜の8時すぎ。
夕方にここに着いて、ずっと話をしていたから時間の経つのなんて気にしていなかったけど、結構な時間喋っていたらしい。

「もしよければだけど、今日はうちに泊まるといいよ。何もないけど、奥さんのご飯だけはおいしいよ」

と言って、博士はいたずらっぽく笑った。

「あ、じゃあ……お願いします」

「うん、じゃあちょっと連絡してくるよ。いたずら盛りの子がいるけど、適当に相手してやってくれると助かるよ」

「はい、お世話になります」

小さい子の相手は、この最近で妙に慣れてしまった気がする。

すっかり冷めてしまったお茶を飲み干して、私は荷物をまとめた。


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