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「…っはー、」

激しい衝撃は一瞬で、気が付いたら渦の向こう側、ゆらりとおだやかな波間にたゆたう。

『大丈夫、カナエ?』

「ん、大丈夫ー。ありがとう、垂」

そこからは私を気遣ってくれたのか、さっきよりもゆっくりと速度を落として緩やかに祠を目指す。

祠は目の前。
さっきの大渦を抜けたから、あとは何事もなく着岸すると気を抜いた……そのとき。

『何者だ?』

凛とした声が、どこからか響いてきた。

「え…?」

姿は見えない……いや、それはゆっくりと水底からこちらに近付き、そして静かに水面に顔を出した。
あれは……、

「ハクリュー…?」

ミニリュウよりもすらりと長くなった体。
多分男の子…なんだろうけど、その声はボーイソプラノで中性的な印象を受ける。

『…もう一度聞く。お前は何者だ?』

射るように鋭い視線が向けられる。

「私…は、」

なんて説明したらいいだろう。通りすがりのトレーナー、などと言って果たして通じるのだろうか?

『先の祠は我等が聖域。素性も知れぬ者を通すわけにはいかない』

私の沈黙を否ととったか、ハクリューは厳しい声でそう告げる。

「あ…えっと、違うの。私はイブキさんにここへ行くよう言われて、」

そこまで言ったところで、ハクリューは少し首を傾げた。

『……?そういえばお前は俺の言葉がわかるのか?』

「うーん、まあちょっとね」

やっぱり男の子らしい。
いやいや、大事なのはそこじゃない。

『不思議な人間だ…』

「よく言われるよ」

…特に、ウバメの森を抜けてからはね。
ハクリューは何かを考えているのかしばらく沈黙していたけど、やがてその口を開いた。

『……ともかく、イブキ嬢がここへ行くように言ったのなら、バッジを持っているはず。そうと確認できたなら、ここを通そう』

「えっと…そのバッジをもらうためにここまで来たんだけど、」

『証を持たぬ者をこの先に通すわけにはいかない。お引取願おう』

そして、次の瞬間。

「垂、よけて!」

『言われなくても!』

垂が身を少し捻ると、ざあ、と私たちが居た場所を衝撃波が疾った。
さっきジムで見た技…竜の波動だ!

戦いたくはない。
でも、戻ることもできない。

なら、ハクリューに引いて貰うしか…、

「風音!」

私は空中に向かってボールをひとつ、放り投げた。


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