4 「…っはー、」 激しい衝撃は一瞬で、気が付いたら渦の向こう側、ゆらりとおだやかな波間にたゆたう。 『大丈夫、カナエ?』 「ん、大丈夫ー。ありがとう、垂」 そこからは私を気遣ってくれたのか、さっきよりもゆっくりと速度を落として緩やかに祠を目指す。 祠は目の前。 さっきの大渦を抜けたから、あとは何事もなく着岸すると気を抜いた……そのとき。 『何者だ?』 凛とした声が、どこからか響いてきた。 「え…?」 姿は見えない……いや、それはゆっくりと水底からこちらに近付き、そして静かに水面に顔を出した。 あれは……、 「ハクリュー…?」 ミニリュウよりもすらりと長くなった体。 多分男の子…なんだろうけど、その声はボーイソプラノで中性的な印象を受ける。 『…もう一度聞く。お前は何者だ?』 射るように鋭い視線が向けられる。 「私…は、」 なんて説明したらいいだろう。通りすがりのトレーナー、などと言って果たして通じるのだろうか? 『先の祠は我等が聖域。素性も知れぬ者を通すわけにはいかない』 私の沈黙を否ととったか、ハクリューは厳しい声でそう告げる。 「あ…えっと、違うの。私はイブキさんにここへ行くよう言われて、」 そこまで言ったところで、ハクリューは少し首を傾げた。 『……?そういえばお前は俺の言葉がわかるのか?』 「うーん、まあちょっとね」 やっぱり男の子らしい。 いやいや、大事なのはそこじゃない。 『不思議な人間だ…』 「よく言われるよ」 …特に、ウバメの森を抜けてからはね。 ハクリューは何かを考えているのかしばらく沈黙していたけど、やがてその口を開いた。 『……ともかく、イブキ嬢がここへ行くように言ったのなら、バッジを持っているはず。そうと確認できたなら、ここを通そう』 「えっと…そのバッジをもらうためにここまで来たんだけど、」 『証を持たぬ者をこの先に通すわけにはいかない。お引取願おう』 そして、次の瞬間。 「垂、よけて!」 『言われなくても!』 垂が身を少し捻ると、ざあ、と私たちが居た場所を衝撃波が疾った。 さっきジムで見た技…竜の波動だ! 戦いたくはない。 でも、戻ることもできない。 なら、ハクリューに引いて貰うしか…、 「風音!」 私は空中に向かってボールをひとつ、放り投げた。 |