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竜の穴…その入口は、イブキさんの言った通りフスベジムのすぐ裏、小さな池の向こう側に口を開けていた。

風音に向こう岸まで乗せてもらって穴の中を覗き込めば、人の出入りがそれなりに頻繁にあるんだろう。
最低限舗装された道が奥へと伸びていた。

「ほんっと、アッタマ来るよねぇ」

隣を歩く蒼衣に同意を求めれば、さすがに返事に困ったのか曖昧に頷き、

「カナエはそのままでいいよ」

と、言った。
さすがに少し頭は冷えたけど、まだ少しむかむかする。
翡翠や風音は一歩後ろから私たちに続く。

「だいたい、何でジム戦にだって勝ったのに…」

今までいろんなジムを回ってきたけれど、こんなのは初めてだ。
イブキさんはそれらしい理由もなく、単に負けたのが悔しいからだろうか…
それだけじゃない気もする…けど、その真意は少なくとも今はわからない。
今日が初対面なんだから、イブキさんに嫌われてる…っていうのも考えにくいし。
(そりゃあよっぽど第一印象が悪ければ話は別だけど、それにしたって思い当たるフシはない)

そんな考えに気を取られていたのが悪かったんだろうか。

「カナエ、足下!」

え、と思った次の瞬間。
ごろ、と拳ほどの大きさの石を踏み、バランスを崩す。
がくりと身体が重力に従う寸前、両脇を蒼衣と風音に支えられる。

「あ…りがと、」

「まったく、腹立つのはいいけどそれで怪我しちゃあ世話ないわよぅ」

風音の言うことも尤もで、いない相手に向かって怒っても仕方ないと少し反省した。

それに、ものは考えようだ。
この竜の穴はどうやら一般人は滅多に入ることができないみたいで、成り行きはどうあれそんなところに入れたのはラッキーといえるのかもしれない。

そう思い始めたら思考は段々上昇してきて、胸のむかむかはほとんど気にならなくなってきた。
(まあ、現金といえばそれまでなんだけど。ポジティブは私の取り柄なのだ)

足下に気をつけてしばらく進むと、道はそこで途切れていた。
そして、目の前に広がるのは深い深い碧。
その美しい光景に見入っていると、向こうの方でぱしゃりと水面をたたく音が聞こえた。


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